スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

ジャイアンツが欲しかった「ポスト坂本」、2度抽選を外してもブレなかった阪神 元巨人スカウト部長が明かすドラフト秘話

永松欣也

2018年のドラフト会議で4球団に1位指名された根尾。巨人も根尾を獲りにいったが… 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 2017年から2018年まで巨人のスカウト部長を務めていた岡崎郁氏に選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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ドラフト直前にスカウト部長を解任

 シーズン終了後、翌シーズンから原さんが監督復帰することに伴い、巨人のフロントも大きく変わることになりました。前年途中からGMを務めていた鹿取義隆さんが退任することになり、私もドラフトの2週間前に社長に呼ばれて「スカウト部長を退任してほしい」と言われました。スカウト部長としてまだ2年目でしたし、この1年間、担当スカウトと一緒にいろんな選手を見てきて「さぁドラフト!」というタイミングでしたので、代わるにしても「ドラフト会議までは現職でやらせてほしい」という気持ちは正直ありました。でも私も会社組織の一員ですし、決定事項ならば従うほかありません。

 私の後任はスカウトから査定担当になっていた長谷川国利(現東海大監督)です。ですがこの年のドラフトに関して長谷川とは引き継ぎ的なことは行っていません。突然スカウト部長になる長谷川にしても、この年の選手は全く見ていないわけですから、「ドラフトは大丈夫なのか」と心配もしました。でも当日に巨人が指名した選手を見て安心しました。私の在任中に1位で考えていた大阪桐蔭の根尾昂(中日)が1位指名され、外れの1位指名も含めた全6選手の顔ぶれも、何度もやったシミュレーションに近い形でした。残ったスカウト部員が主導して、うまくやってくれたのでしょう。

 この年の1位指名は根尾に4球団、チームメイトの藤原恭大(ロッテ)に3球団、報徳学園の小園海斗(広島)に4球団と高校生野手に指名が集中しました。巨人がこの年欲しかったのは、ポスト坂本になり得るショートを守れる選手でした。ショートを守れることができればセカンド、サードもできますし、中長期的には坂本、岡本、吉川を含めて内野手を生え抜きで固めたいという思いもありました。

 そういった理由から根尾と小園を高く評価していたのですが、最終的に根尾の方を高く評価したのは、足の速さと肩の強さ、そして身体能力。それに加えてやっぱり「甲子園のスター」であること。前年の清宮ほどではなかったものの、なかなかこのクラスのスター性を持った選手はいるものではありませんから。

 根尾の将来像は、意外かもしれませんが私の中では巨人のショートを長らく守った川相昌弘でした。根尾のプロ入り後のポジションはショート、セカンド、サードのどこかで、身体能力が高く、足が速くて小技もできるので打順は一、二番。脇役という言い方は少し語弊があるかもしれませんが、プロでの将来像、成功イメージは華々しく活躍するタイプというよりも、そういうタイプの選手でした。私の勝手なイメージですけどね。

3度目の入札で方向転換した巨人、ブレなかった阪神

野手にこだわった阪神が“外れの外れ”で1位指名した近本は、岡崎氏も「良い選手だ」と思っていた 【写真は共同】

 この年は初めから野手を1位で獲ろうという戦略があったわけではなく、例年に比べて野手が豊作な年だったことが関係しています。先ほど話したように一巡目で根尾、小園、藤原を11球団が指名し、外れでも立命館大の辰己涼介(楽天)、天理の太田椋(オリックス)、大阪ガスの近本光司(阪神)が指名され、2巡目でもキャッチャーを含めて7人の野手が指名されています。それくらい野手に人材が多いと、いくらピッチャーが欲しいなと思っても、自然に上位指名は野手になりますよね。

 根尾はプロ入り後にポジションが転々と変わって、今はピッチャーとして少し苦しんでいるようです。私が描いていたプロでの成功イメージとは随分変わってしまいました。高校時代の根尾を見ていて、私はピッチャーとしては評価していませんでしたから。

 今の根尾について聞かれたら「分からないです」としか言いようがありませんが、根尾のことは改めて話したいと思います。

 根尾を外して外れ1位で指名したのが立命大の辰己でした。良いバッティングをしていましたし、守備も肩も抜群でした。この年の巨人の外野はレフトがゲレーロ、センターはFAで獲った陽岱鋼が主に守りましたが怪我が多く、ライトはベテランの長野久義や亀井善行が多く守っていました。盤石とは言えませんし、みんな30歳を超えていましたから、辰己はもちろん即戦力という評価で、将来の外野の中心選手として指名したと思います。でもこちらも4球団が競合して外してしまいました。

 外れの外れは八戸学院大の左腕、高橋優貴に方向転換されました。これは残っている野手とピッチャーを比べてみて、力のある野手が残っていないのならピッチャーで行こうということになったのかもしれませんね。会場の円卓にいたわけではないので詳しい経緯は分かりませんが。このときは國學院大の清水昇(ヤクルト)と迷ったようです。実力的には同じような評価でしたから、最終的には「だったら左で」となったのでしょう。高橋は1年目に5勝し、3年目には二桁勝つなど活躍してくれました。その翌年は調子が上がらず肘の手術もして、そこから調子を取り戻せずに昨シーズン限りで戦力外になってしまいました。

 巨人が1位で野手を二度外して、その後ピッチャーに切り替えたのとは対照的に、阪神は藤原、辰己を外しても、外れの外れで同じ外野の近本で行きました。近本は大阪ガスに岸田(前年巨人2位指名)を観に行ったときに印象に残った選手でした。センターを守っていて、小さいけれど足が速く、バッティングにはパンチ力がある。良い選手だなぁと思いました。もちろんこの年のドラフトで欲しい選手でもありました。でも外れの外れとはいえ、小柄な大卒社会人の外野手を1位で獲るのかと言われると、ちょっと勇気がいったと思います。外野手の1位となると、やっぱりかなり飛び抜けている選手になります。足が速い、守備が良いというだけの外野はたくさんいますからね。

 それでも阪神はブレずに外野にこだわって、1位で近本にいきました。それが大正解な指名になったことは言うまでもありません。この指名はちょっと凄いと思いますね。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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