野村克也と侍戦士に通底する「3割打者」への道筋 技術、体だけでない礼儀を学んだ捕手としての経験
豪快なホームランや華麗な打撃技術の裏には、派手さとは無縁の「ふつうの家庭」の物語がある。教育一家に生まれた父・近藤義男さんは、息子に"やらせる"のではなく、"やりたいことをとことん応援する"姿勢を貫いた。
結果として生まれたのは、努力を自ら楽しみ、壁を越える力を備えた一人のアスリート。「教える」ではなく「見守る」――その実践が、侍ジャパンの主軸を育てた。
書籍『世界一の侍選手の育ち方 ふつうの息子がプロ野球選手になれたワケ』(近藤義男著)から一部抜粋して公開します。
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実力だけではないプロ野球の世界 「挨拶ができなければ、試合に出られない」
「技術」も「体」も大事なのは当然のことだが、プロ入り当初、健介が印象深い話をしていたことがある。
「挨拶ができなければ、試合に出られない」
「プロは実力の世界」とよく言われるが、それだけではなく、礼儀も必要ということだ。どれだけ実力があったとしても、監督に使ってもらえなければ、試合に出ることはできない。「こいつは挨拶をしないから使わない」なんてことはさすがにないだろうが、人として当たり前のことは、プロの世界だからこそ大事にする。
試合中、打席に入るときや、出塁したときに、近くにいる審判に頭を下げて挨拶をするシーンをよく見かけると思う。「あれは、『こんにちは』とか挨拶しているの?」と健介に聞くと、「違うよ。『お願いします』って言っているんだよ」と教えられた。そこには、審判に対するリスペクトも込められていて、礼儀をわきまえられない選手は、自らの立場を不利にしかねない。
ファームでキャッチャーをやっていたとき、こんなことがあった。2ストライクと追い込んだあと、際どいコースの球に対して、健介は「ストライク!」と確信してキャッチングしたが、球審の判定は「ボール!」。そのとき思わず、マスク越しに「え?」と声が出てしまった。すると、すぐに球審から「『え?』じゃねぇだろう」と声が飛んできたそうだ。その後、際どい球はすべてボール判定になった。
近年、科学技術の発達もあり、「ロボットにストライク・ボールの判定を任せればいい。そのほうが正確な判定ができる」という意見が出ているが、私は人間がジャッジするからこその面白みがあると思っている。
結局、どんなスポーツも人と人との関わりによって、プレーが成り立ち、名勝負が生まれる。そして、人が関わるからこそ、挨拶が大事になる。プロの世界であっても、実力だけで戦っているわけではないことを、私も健介から教わった。
「成功3割、失敗7割」だからこそ面白い 7割の失敗にどれだけ目を向けられるか
じつは高校3年時、身長がネックになり、ドラフト指名のリストから外した球団があったと聞く。「175センチ以下は獲らない」という方針があったそうだ。
もともと、日本ハムの大渕スカウトが評価していたのは守備力だった。小さい頃から優れていた肩の強さは、高校生の中ではトップクラス。プロのファームに入っても、遜
色のない強さを持っていた。
一方で、バッティングが課題と言われていたが、プロ入り2年目に元ロッテの武藤一邦さんから、意外な声をかけられた。
「ファームの審判に聞くと、バッティングの評価が高いよ」
「本当に?」と思ったが、もっとも間近で見ている審判だからこそ、たしかな評価のはずだ。その言葉通り、プロ入り3年目から一軍での出場機会が増え、89試合に出場。4年目の2015年には捕手やDHでスタメンに名を連ね、初の規定打席到達、さらに打率3割2分6厘の好成績を残した。以降は腰痛に苦しんだ時期もあったが、毎年のように高い打率と出塁率をマークした。
健介のバッティングを見て、つくづく思うのは、「成功3割、失敗7割で一流と呼ばれるバッティングが、人間的な成長につながっている」ということだ。どれだけ努力を重ねても、打率4割を超える打者はNPBでは出てきていない。7割の失敗にいかに目を向けられるか。常に課題と向き合い、試行錯誤を繰り返す。このサイクルがとてもいい。
「掴んだ」と思っても、それが長く続くわけでもない。相手投手もあの手この手で、打者のタイミングをずらしくる。
仮に、成功7割、失敗3割のバランスであったら、ここまで追求することはなかったのではないか。近年は投手の実力が上がっている分、打率3割の価値がより上がっているように思う。