ブラジル戦の大逆転劇がW杯をより難しくする? 日本代表が向き合う歴史的勝利のインパクトとは
スコアに表れなかったブラジルとの差
もちろん日本は「戦術:カタール」にとどまらない進化を遂げている。ブラジル戦前日、堂安は「例えば明日引き込む状態があったとしても、ボールを握った時に相手に簡単には失わないと思います」と述べたうえで、こう話していた。
「カタールW杯の時は(相手のボール支配率が)80%で(日本のボール支配率が)20%、それを70%対30%、60%対40%にできる。僕の肌感的にはまだ50%対50%は早いと思っているので、もちろんそれができればいいですけど、明日の試合でちょっとでも積み上げたものが出せたらなと思います」
背番号10の「肌感」は正しかったが、一方で見誤っていた部分もあった。先に述べた通り、日本は前半こそ30%台だったボール支配率を、逆転までの流れの中で50%以上まで引き上げることができたのだ。
とはいえ、サムライブルーの選手たちはスコアに表れないブラジルとの力の差を感じてもいる。
ゴールマウスを守っていた鈴木彩艶の「ボールを回されている距離的にも、目を切れるような状況がなかなか少なかった」という言葉が象徴的だ。彼はさらに続ける。
「自分としてはボールの移動中はもちろん首を振ったり、中の確認をしたりできるんですけど、最後のところではシュートの準備もしなければいけないので、『目線を切る』という部分では最後にワンタッチで1本、2本やられた時にやっぱり見切れないところがあった。1失点目を含め、タイミング的に自分がいいタイミングでシュートに対して臨めなかったというのはありますね」
ブラジルがボールを持っている際、パスの出し手と受け手の関係が連続するだけであればそれほど怖くはなかった。コンパクトなブロックを維持し、ボールの動きに合わせたスライドを怠らなければ崩されることはない。ただし、出し手と受け手以外の選手が3人目、4人目と背後を狙うような動きを突発的に加えてくると、途端に予測が難しくなってスライドが追いつかなくなり、連動性を失ったブロックの穴を確実に突かれてしまう。その速さと鋭さは、日進月歩の成長を続ける守護神の判断を狂わすほどだった。
こうしたハイレベルな技術とアイデアの融合した組織的な崩しができるのはブラジルだけではない。W杯の舞台で優勝を目指す上では、万全の日本対策を携えたブラジルと同等の力を持つ相手と何度も対峙したうえで、公式戦仕様の強度を最大8試合にわたって維持しなければならないのである。
W杯でも歴史を塗り替えるために
ただ、歴史は塗り替えられることを森保ジャパンは証明してきた。そのうえで過去の日本の成功も失敗も知っている選手たちに一切の気の緩みはない。
決勝点を挙げた上田綺世は勝利を自信にしながらも「歴史を新しく作ったのはすごく大事なことですけど、そこで一喜一憂しすぎず、僕らはあくまでW杯優勝を目指しているので、次の活動ではまた課題克服とチャレンジがあって、それの連続だと思う」と、すでに11月シリーズとその先を見据えていた。
鎌田大地も「もちろん日本代表としては今日また新しい歴史を作れたわけで、そこに自分がいられているのはうれしいこと」と勝利を喜びながら、「自分たちはまだまだ上を目指していくので、こういうのを当たり前にしていかなきゃいけないとダメだと思う」と語気を強める。
選手たちの話を聞いていると、世界からの見られ方が変わって警戒が強まっても、それを上回っていくだけの力を発揮できそうな頼もしさを感じる。谷口も「世界的にもビッグニュースになるとは思うし、日本がより分析されていくと思うので、個々でもチームでも、それをまた上回っていかなければいけない」と呼応し、ブラジル戦の勝利を「自分たちが成長できるチャンス」と捉えていた。
「所属クラブに帰って、個々のレベルアップを図り、また集まった時にそのパワーが掛け算になるくらいの集団でいたいと思います」
日本の逆転勝利はカタールW杯グループステージ第3戦のスペイン戦以来だった。ここ2年ほどはアジアの国々との戦いが続いていて先制される試合の数自体が少なかったものの、世界トップクラスの強豪国相手に逆転する力があることを示せたのは大きな成果だ。
真価が問われるのはここから。森保ジャパンに北中米W杯で台風の目になれるポテンシャルがあることは全世界に知れ渡った。大逆転勝利のインパクトによって狭まる包囲網と向き合いながら11月シリーズ以降の試合で「戦術:カタール」にとどまらない勝ち筋を探し当てていければ、W杯でもっと世界を驚かせることができるはずだ。