レッドブルを蘇らせた“静かな革命” メキエス新代表の凄さとは

柴田久仁夫

直近4戦でのフェルスタッペンは、マクラーレンの二人を凌ぎ最多ポイントを獲得した 【(C)Redbull】

「静かな男」がもたらした変化

 前戦シンガポールGPで、マックス・フェルスタッペンが2位表彰台を獲得した。かつて鬼門とされた市街地コースでの優勝争いは、復活を象徴する出来事だった。そのキーパーソンと言えるのが、新代表のローラン・メキエスである。

 7月にメキエスが代表に就任して以降、フェルスタッペンは見違えるように結果を出し続けている。メキエス体制初戦のベルギーGPで、3戦ぶりの上位入賞となる4位。次戦ハンガリーこそ9位に終わったが、その後シンガポールまでの4戦で2勝、2回の2位表彰台。しかもそのうちの3戦では、現時点で最強のマクラーレンの2台を抑えることに成功した。苦戦が続く角田裕毅も、アゼルバイジャンで6位入賞を果たすなど、復調の兆しが見える。

 コンスタントに優勝争いができるまでになったのは、簡単に言えばマシン戦闘力が劇的に改善したからだ。ではそれは、なぜ可能だったのか。普通に考えれば、シーズン途中のチーム代表解任というのは、マイナス要因でしかない。ところがレッドブルは、逆にそこから一気に立ち直った。なぜだったのだろう。

エンジニア出身リーダーが動かすF1

フェルスタッペンとは走行中の挙動変化など、いかにもエンジニアらしいやりとりもする 【(C)Redbull】

 シンガポールGPで2位入賞を果たした直後、フェルスタッペンは復活までの道のりをこう語っていた。

 「僕たちは常に細部まで目を向け、自分たちの弱点を理解しようと努めてきた。でも今までは、どう改善できるのか理解できないまま終わることもあった」

 今季のレッドブルは、開幕序盤こそ優勝3回、2回の2位表彰台と、数字だけ見れば悪くなかった。しかし多くはフェルスタッペンの超人的な頑張りのおかげであり、マシン性能がマクラーレンに劣っていることは明らかだった。

 そしてシーズン中盤には、未勝利のレースが続いた。その結果、フェルスタッペンはタイトル争いで首位オスカー・ピアストリに100ポイント以上の大差をつけられ、レッドブルも選手権4位に沈んだ。

 「それがここ数レースは、確実に改善している。ローランが加わり、適切な聞き取りをすることで、うまく行くようになってきた」

 フェルスタッペンはさらっと語っているが、彼が言いたいのは「チームトップの大胆な路線変更」だ。

 ホーナー前代表は、強烈なリーダーシップでチームを引っ張ってきた。2010年からの四連覇、2021年から去年までの二度目の四連覇が示すように、そのやり方は十分にうまく機能していた。

 しかし1年以上前から、レッドブル内部では深刻な問題が浮上していた。開発面では、風洞などシミュレーターの示すデータと、実走行での結果が一致しない。自信を持って投入した改良パーツが、期待通りの速さを出さない事態が何度も起きた。

 それでもフェルスタッペンはなんとか四連覇を果たしたが、コンストラクターズ選手権ではマクラーレンにタイトルを奪われた。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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