スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「ソフトバンク希望」尊重して手を引いた周東とリチャード 批判された捕手2人指名 元巨人スカウト部長が明かす秘話

永松欣也

間違いではなかったキャッチャー2人指名

大城卓三(左)、岸田行倫(右)はどちらもプロで実績を挙げている 【写真は共同】

 もしも村上が獲れていたら2位の岸田行倫(大阪ガス)、3位の大城卓三(NTT西日本)のどちらかのキャッチャーは獲っていなかったでしょうね。この時の指名は「支配下上位で社会人キャッチャーを2人も獲って、巨人のスカウトは何を考えているんだ!」と散々叩かれましたけど、もちろん理由があっての指名でした。

 通常各球団の支配下選手70人のうち、多いところで10人くらい、少ないところでも8人くらいはキャッチャーが登録されているものです。ですがこの年の巨人は6人だけ。そのうち相川亮二は現役を引退し、實松一成も戦力外になりましたから、このままでは翌シーズンに計算できるキャッチャーが小林誠司とちょっと試合に出始めた2年目の宇佐見真吾(現中日)の2人しかいない。そういう状況だったのです。GMからも「支配下でキャッチャーを2人指名してくれ」と言われていました。

 おまけにこの年のキャッチャーで支配下指名されたのが、村上、岸田、大城以外では広島1位の中村奨成(広陵)、ヤクルト7位の松本直樹(西濃運輸)、DeNA9位の山本祐大(滋賀ユナイテッドBC)しかいないことからも分かるように、キャッチャーの絶対数が少ない年でもあったのです。

 こういった事情から、早めにキャッチャーを獲らないと他球団に先に指名されてしまう可能性があり、このような指名になったわけです。実際、巨人が2位、3位でこの2人を獲ったものだから、パ・リーグのある球団は「やられた!」と怒っていましたよ。

 岸田は今季、FA加入の甲斐拓也の怪我もありましたがレギュラーを獲りましたし、大城もWBCに選ばれ、FA権を獲得するまでの選手になりました。批判も多かったですが、今となればこの指名は間違いではなかったと言えますよね。

 中村も甲子園で6本もホームランを打ったし、キャッチャーとしての能力も含めて高く評価はしていました。でもこの年の1位はやっぱり清宮ですから、広島が1位指名するだろうし、外れではまず残っていませんから指名はほとんど諦めていました。

 同じような理由でJR東日本の田嶋大樹(オリックス)と立命館大の東克樹(DeNA)も観に行って高く評価していましたが、彼らも1位で消える素材でしたから諦めていましたね。

 山本も滋賀まで観に行きました。体が細かったですけど肩は良かったですね。ただ、岸田と大城がもう獲れていましたから、指名予定からは消えました。

指名したかったソフトバンクの2人

 4位の北村拓己(亜細亜大/現ヤクルト)はバッティング評価、5位の田中俊太(日立製作所)と6位の若林晃弘(JX-ENEOS)はセカンドとして考えていました。前年1位の吉川が最初の1、2年は怪我が多くて、それでセカンドができる選手が欲しかったのです。6位の村上海斗(奈良学園大)は外野でパワーがあって当たれば飛ぶ。荒っぽさもあるけれど、こういうタイプの選手もなかなかいなかったですし、下位指名ならばということで指名しました。7位の湯浅大だけが唯一の高校生指名で、実際に私が健大高崎に観に行って良い選手だなと思って、GMに「どうしても欲しいです」とお願いして指名しました。

 4位以降は大学、社会人の野手を4人指名していますが、ソフトバンクが育成2位で指名した東京農業大北海道オホーツクの周東佑京も、この辺りの順位で欲しいと思った選手でした。線は細かったですけど足がとにかく速くて、ショートの守備もバッティングも良い。前年に獲った吉川並みの野球センスを感じた選手です。はっきり言えば育成レベルの選手ではありません。オホーツクまで観に行きましたけど、本人がどうしてもソフトバンクに行きたいと言っていて、監督さんも「ソフトバンクと相思相愛だから、できれば邪魔しないであげてほしい」みたいなことを言われてしまいました。上位指名候補ならばそれでも食い下がったと思いますが、「そこまで言うのであれば・・・」ということでこちらも手を引きました。もしも12球団OKということであれば支配下指名は間違いなかったでしょうね。

 同じくソフトバンクが育成3位で指名した沖縄尚学のリチャードも支配下での指名を考えた選手でした。ただ担当スカウトからは「本人はソフトバンクに行きたがっている」と聞きましたし、その後は「大学進学を希望している」という話も聞きました。昔と違って今はプロ志望届を出さないと指名できないわけですから、本気で進学を希望するのならばプロ志望届は出さないのですが、この時は確か最後の最後でプロ志望届を出したと思います。「そこまでソフトバンクに入りたいなら・・・」ということで、こちらも指名を見送りました。ソフトバンクでは期待されながらも長らく燻っていましたが、今年巨人に移籍して花開こうとしていますね。運命とは分からないものです。

 この年は1位が外れの外れで中央大の鍬原拓也を指名して、それ以外の7人は全員野手の指名になりました。前年が1位の吉川以外が全員ピッチャーでしたから、編成的にバランスを取ったということですよね。

 やっぱり1位で抽選を二度外していますから、指名には満足は出来ないですよね。鍬原も中央大時代に投げているボールは素晴らしかったので、もう少し活躍してほしかったなという思いはあります。大学1年の時に右肘を骨折していたことは知っていましたが、その後は良いボールも投げていたし、腱を痛めたわけでもなかったですから、プロでも十分やれるだろうと考えて指名したのですが、プロでは故障もあって思うような結果を残すことが出来ませんでした。「調査が甘い」と言われればそれまでですが。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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