連載:徹底考察「ポテンシャルが高い選手」とは?

昨年ドラフトで6人指名の富士大・安田慎太郎監督の育成術「本当にポテンシャルが高い選手は予想を超えて成長する」

高橋昌江

岩手県花巻市にある富士大は、北東北大学野球連盟に所属。2020年からチームを率いる安田監督は、どのような指導で選手のポテンシャルを引き出しているのか 【高橋昌江】

 昨年のプロ野球ドラフト会議で、オリックス1位の麦谷祐介外野手を筆頭に6人(支配下4人、育成2人)が指名された富士大学。同大で2016年からコーチ、2020年7月から監督を務める安田慎太郎監督は、選手の才能をどのように見極め、そしてどのように能力を引き出しているのか。

「プロになりたい」と本気で思っている選手が増えてきた

昨年のドラフトでは支配下で4人、育成で2人が指名を受けた。1つの大学から同じ年に6人が指名されたのは史上初の快挙だった 【写真は共同】

――昨年、プロ野球に6人の選手を送り出しました。彼らが入学した2021年春には、新入生たちを前に「このなかからプロに6、7人行ける」「日本一を獲れる」とお話されていますね。

 彼らが高校3年の5月時点で、うちに来ることが決まっていたのは4人だけだったんです。前監督から「7月から監督」と言われ、3カ月くらいで63人が集まりました。私立の名門高校は早くに進学先が決まるので、あの代は名門校出身者が少ないんですよ。ですから、プロがどうこうではなく、「いい選手」だと思って集め、蓋を開けたらポテンシャルのある選手が揃っていたという感じなんです。私のなかでは63人中、10数人の(プロ)候補がいました。

――実際、7人が志望届を出し、6人が指名されました。その影響を伺いたのですが、まず、今年度の部員数は何人ですか?

 185人です。

――富士大側が声をかけた選手と自ら希望して来た選手の割合は?

 以前は声をかけた選手が7割くらい。今は半々くらいですかね。2023年に大学選手権と明治神宮大会でベスト4になってから希望してくる選手が増えました。現在の1年生と来年の新入生ですね。

――来年の入部希望者に昨年のドラフトの影響を感じますか?

 来る選手のレベルが変わったと感じています。以前の希望者は声をかけた選手との差が大きかったんです。それが、希望してくる時期も早くなりましたし、見てみたらめちゃくちゃいいという選手が多くなりました。練習会の参加者は30〜40人で変わっていませんが、昨年から「来てくれるの?」という、東都リーグでもやれそうなレベルの選手が参加してくれるようになってきました。「どうしてうちなの?」と聞くと、「プロに行きたいから」と言うんです。これまでの「野球を続けたい」という選手ではなく、「プロになりたい」「社会人でやりたい」と本気で思っている選手が増えた感じがします。

――全国ベスト4と6人のプロ入りはインパクトが大きいですよね。

 目標が高い選手が多くなっていますね。だからこそ、もっとストイックな集団にしたいんですよ。まだ取り組みが甘い。上のレベルで本気で続けたいという希望は持っていますが、まだまだ未熟です。

高校生野手はどのツールが揃っているかを意識して見る

現オリックスの麦谷は「筋肉の質がよかった」と安田監督。富士大でその才能をぐんぐん伸ばし、ドラフト1位指名を勝ち取った 【写真は共同】

――高校生を見る時のポイントを教えてください。

 一番は直感。他の人には普通の選手に見えるかもしれませんが、「これは絶対によくなる」と感じる選手がいるんです。ピッチャーだと、指先のボールの発射角度や投げる時に最大外旋を取れるかどうかを見ています。あとは足の速さなどの身体能力。走り方も大切ですが、バネがあるかどうか。腱の強さも重要ですね。今、よく見ているのはユニホーム越しの筋肉の質。これは重要視しはじめました。

――どうしてですか?

 張り感がある筋肉の質をしている選手のほうが、ウエイトトレーニングなどをしたときに伸び方が違うんです。昨年でいうと、麦谷祐介、安德駿(ソフトバンク)は上質でした。そういうサンプルがあり、伸びる選手と伸びない選手を比較した時に筋肉の質がいい選手のほうが、筋肉が大きくなった時にスピードやパワーに変わっていく確率が高いと思ったんです。

 高校時代に志望届を出していれば支配下指名されるような選手は、うちには来ないんですよ。うちに来て大卒で支配下を勝ち取ろうと思ったら、同学年のドラフト候補を追い抜かないといけない。その競争でフィジカルは大事なんです。ウエイトトレーニングから逃げた選手は誰もよくならなかったですね。

――野手の右打ち・左打ちやポジションは考慮しますか?

 どのツールが揃っているのかを意識しています。ミート力、長打力、走力、守備力、肩力の5ツールですね。例えば、180センチ・85キロの右打ちで、不器用だけど肩と足があるとなれば、魅力があります。175センチ・75キロの当て勘がある左打ちの選手が、足、肩、守備が普通だと上でやるのは厳しい。これで足が速くてショートを守れるというのであれば、ツールを満たしています。なので、ツールの組み合わせも考えます。

 ポジションは肩や足次第でコンバートしたり、あるいはスタイルをチェンジしたりできるので、それより意識しているのはツールですね。

――選手たちと日々過ごすなかで監督の役割はどう考えていますか?

 育成と起用ですかね。日本一を獲りたいし、めちゃくちゃ勝ちたいんですよ。ただ、うちに来る選手のレベルは東京六大学や東都など関東の大学に比べると劣るのが現実です。その選手たちが日本一を獲るとなったら、育成しないと無理。日本一になる大学は必ずドラフト候補が何人かいますよね。条件がそうなのであれば、プロにいけるような選手がたくさんいれば勝てるだろう、というところから育成は大事だと思っています。

 育成というと、勝たなくていいと思っている人がいるのですが、そうじゃない。勝たないと、プロにしても社会人にしても、就職につながりませんから。

――起用で大切にしていることは?

 3年後、4年後にどうなっていくかを予測して使うことです。その時の調子による行き当たりばったりではなく、伸びそうな選手、天井が高い選手を起用します。リーグ戦、オープン戦の打席数、イニング数は決まっているので誰に割り振るかはかなり重要。技術を教えるより大事だと思っているくらいです。打席やイニングを誰に振れば無駄にならないか。慎重に考えますね。野手だと打席を与え続けているとハネる選手がいるので、それがどこなのかを見極めています。

――勝つために育成と起用が重要だ、と。

 うちに来るレベルの選手で日本一を獲る、プロに行く、となったら成績の数字だけを見ていると開花しないまま終わる選手ばかりです。たまたまではなく、複数の選手がドラフト候補に育ち、優勝候補として実力で日本一を獲りたいんです。

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著者プロフィール

1987年、宮城県若柳町(現栗原市)生まれ。中学から大学までソフトボール部に所属。東北地方のアマチュア野球を中心に取材し、ベースボール・マガジン社発刊誌や『野球太郎』、『ホームラン』などに寄稿している。

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