渡辺剛が負傷者続出の日本代表DF陣を救う? 欧州仕込みの「柔」と「剛」で新たなリーダーに

舩木渉

守備陣形を変えた決断の背景

渡辺は森保一監督とも積極的にコミュニケーションを取るが、試合中は自らの判断でチームに戦術変更を伝えることも厭わない 【Photo by Toru Hanai/Getty Images】

 板倉や冨安、伊藤、町田が不在となる試合で渡辺にはディフェンスラインを統率する役割も求められる。「自分にとってはやることは変わらない」と冷静ではあったが、パラグアイ戦がこれまで以上に士気の高まる試合だったことは言うまでもない。

「もともと統率力を発揮したいというか、守備を他人の責任にしたくないというか。自分が統率して守りたい気持ちはもともとあったし、それを得意として今までやってきている中で、それが代表でも発揮できるような立場になってきた。結果を出さないといけないところで、失点すれば自分の責任になるし、そういう意味で自分が(守備を)組織できるのは自分にとってプラスかなと思います」

「経験のある選手がいる方がチームは安定すると思いますし、そこは今回の自分たちの課題というか、ディフェンスラインでずっと出ていた選手がいないのは事実なので、そこをどう補っていけるか、どうバタバタしないでやれるかが、自分や瀬古(歩夢)のタスク。そこで僕たちがコミュニケーションを取りながら全員でサポートし合いながらやれれば、板倉選手たちに引けを取らない。日本代表の良さである全員攻撃、全員守備をしっかりやれれば、特に問題はないと思っています」

 パラグアイ戦では全てがうまくいったわけではない。1失点目の場面では瀬古歩夢にラインコントロールとマークのミスがあったものの、渡辺はミゲル・アルミロンに背後を取られた。2失点目の場面ではディエゴ・ゴメスに自分の前でヘディングシュートを許してしまった。

「まずボールホルダーにもう少し寄せさせるのと、自分のところでもうちょっと相手に体を当てるなど完全にヘディングさせないような対応をすべきだった」と悔いたように重要局面での課題が出た一方で、ディフェンスリーダーとしての統率力に関しては際立った才覚を発揮した。

 3-4-2-1でスタート日本代表は、後半になると守備の際に4-4-2の形で構えることが多くなった。左ウィングバックだった中村敬斗を左ウィングの位置まで押し上げ、左センターバックの鈴木淳之介をサイドへスライドさせることで攻守のシステムに変化をつけ、4-2-3-1で戦うパラグアイの攻撃の起点をつぶそうとした。

 この戦術変更は森保監督からの指示ではなく、ピッチの中にいる渡辺の判断で行われたのだという。「守備の仕方は前半途中から、僕が(中村)敬斗に伝えました。監督からじゃ伝わらない部分もあるので、中でできるんだったらそれが一番いい」と述べる背番号4は、守備の構造を変える決断に至った背景を次のように説明する。

「敬斗が下がって5バックだと相手のビルドアップのときに1枚余っちゃうので、もう敬斗は出して、(鈴木)淳之介をちょっとスライドさせながら、前はマンツーマンになりますけど、前の守備でハメるときにしっかり人数を合わせられるように、僕は敬斗をもっと前に押し出していきました。それが前半でうまくいく場面もありましたけど、後半からあらためてちゃんと確認できたときに、しっかりハメることができたと思います」

 実はこうした試合中の柔軟なシステム変更についての考えを、渡辺はパラグアイ戦前日にも詳しく話していた。

「相手の攻撃の仕方しだいで、相手が前に4枚並べてくるんだったら自分たちが可変して4バックで4枚に合わせてもいいですし、逆に4枚の相手に5バックで守ると前線の守備がハマらなくて厳しくなる状況もある。自分たちが可変して、後ろがスライドして4バックにする場面はこれから先に絶対出てくると思うので、そこは最初から想定しながら、この相手には5バックで守るのか4バックで守るのか、あるいは3バックで両ウイングバックにちょっと高い位置取らせて守備をするのか。あるいはメキシコ戦の最初のように前からプレスかけるのかは、判断しながらピッチ上で変えていけるオプションがあるのは自分にとっていいと思うので。考えながらかなと。相手に合わせてという感じです」

 ベースとなるシステムや戦い方を持ちながら、相手の出方によって監督の判断だけでなくピッチ上の選手たちの判断でも柔軟に振る舞いを変えていく。相手が何をしようとしていて、何を嫌がっているのかを冷静に見極めながら、臨機応変に自分たちのすべきことを整理して周りに伝えていく役割を積極的に担う。そうすることで日本代表にとってより重要な存在になっていく。自らの進む道は明確になった。

W杯まで8カ月、序列を覆せるか

2024年のAFCアジアカップ当時、CBとしての序列は低かった。渡辺剛は残り8ヶ月で立場を覆せるだろうか 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 過去を振り返ると、かつての渡辺は対人守備を最大の武器とするセンターバックだった。エアバトルや1対1で無類の強さを発揮する一方、ビルドアップへの関与やライン統率などはそれほど得意でなかったイメージもある。東京五輪世代の代表チームでも序列は低く、五輪本大会への出場は叶わなかった。

 2019年にA代表初招集を受けるも、出場したのは国内組のみで臨んだEAFF E-1サッカー選手権で、次にメンバー入りしたのは欧州移籍後の2023年11月のこと。先に述べた通り翌年1月のアジアカップには出場したが、ピッチに立ったのはグループステージ最終戦のみで、以降は再び日本代表から遠ざかった。

 半年前ならセンターバックとしての序列は6番手以下だったと言っていいだろう。それほどまでに厳しい立場だったが、数少ないチャンスを活かして徐々に信頼をつかんでいる。冨安や町田、伊藤の復帰時期が見通せない現状を考えると、来年のW杯に向けてさらに重要な存在になっていく可能性は十分にある。

「失点もありますし、勝てていないという意味では結果を出さないといけない代表で良くはないですけど、W杯で勝ちにいく、これまでとは違うフェーズに進む中で、ああいう1つのミスから生まれた失点がW杯じゃなくてここで出ているというのは自分にとってはいい勉強材料だと思います。

それがいいとは言えないですけど、結果を求めている中で全力でやるからこそああいうミスは生まれてくるので、それをどうこれから改善していくのか。あとは3バックの守備の可変、4バックにするのか、3バックでハマらなかったら一度落ち着けて5バックにするのか。そのあたりの頭の使い方は、今日の試合でまた改めて変えないといけないんだとみんなわかっているので、話しながら良くしていくしかないですね」

 これまでに積み上げた日本代表キャップは6試合と少ないが、これまでがそうだったように渡辺は経験によって強くなる。世界屈指のタレント集団であり圧倒的な攻撃のクオリティを誇るブラジル代表との対戦も、成長への大きな糧にしたい。

「(アジア最終予選までは)前からプレスに行って、ガシャッとなったところは止めて自分たちのボールにできていましたけど、こういう(パラグアイのような)相手だと球際のところで負けてしまったり、そこで剥がされたりすると後手を踏んで、自分たちが崩されてしまうシーンがあるし、今日はそれが多かった。そのシーンが増えていて、相手は自分たちが前から来てくれることを求めているんだから、逆に自分たちが陣形の整ったところで蹴らせるといった工夫、頭を使うと言いますか、相手が求めていることを考えながら嫌がることをやるべきかなと。(日本代表は)そのレベルにあるのかなと思います」

 リーダーとしての「柔」とファイターとしての「剛」を兼ね備える28歳はW杯までの期間でどれだけの経験を積み重ねて進化していくだろうか。日本を背負って戦う責任に燃える漢がチーム内競争を活性化させてくれることを大いに期待したい。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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