MLBポストシーズンレポート2025

劇的サヨナラを引き寄せた佐々木朗希が感じる"変化" MVP級の活躍に大谷翔平も称賛

丹羽政善

劇的なサヨナラ勝ちに歓喜する大谷翔平らドジャースの選手たち 【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】

明暗を分けたファンダメンタルの大切さ

 あんな形でドジャース対フィリーズが、がっぷり四つに組み、膠着していた試合に決着がつくとは。

 2死満塁で、不振のアンディ・パヘス。ピッチャーゴロに倒れた瞬間、客席からはため息さえ漏れた。しかし、次の瞬間、信じられない光景が。マウンドのオライオン・カーカリングが弾くと、なぜか間に合わないホームへ送球。それが大きく逸れると、熱戦に幕が降りた。

アンディ・パヘスの打球を弾くオライオン・カーカリング 【Photo by Keith Birmingham/MediaNews Group/Pasadena Star-News via Getty Images】

「あんな終わり方、見たことがない」と一塁ベースコーチのクリス・ウッドワード。

「まあ、弾いた瞬間、カーカリングはパニックになってしまったんだろうね」

 最後の最後で問われたファンダメンタル。実は試合前、ウッドワードコーチとこんな話をしていた。

「第3戦は、こっちにミスが出た。いくつか気になることがあったから、今日の試合前に、ミーティングでそれを伝えるつもりだ」

 そのミス――。最初に犯したのは、ドジャースの方だった。七回、先頭のJ.T.リアルミュートが、代わったエメ・シーハンから中前安打で出塁。続くマックス・ケプラーが一塁ゴロに倒れると、「3-6-1」というダブルプレーを誰もが予想したが、ベースカバーに入ったシーハンが、送球をそらした。足元で一塁ベースを探す形になり、一瞬、目線を切ったのが原因だ。その後、ニック・カステラノスに痛恨のタイムリーを許し、一つのミスが失点につながった。

 ウッドワードコーチだけでなく、誰もが肩を落としたが、その裏、ドジャースは2死二、三塁のチャンスを迎えた。ここで打席に入った大谷が敬遠されると、フィリーズはベッツとの勝負を選んでいる。

 マウンドには、イニング途中から起用されたクローザーのジョアン・ジュアン。七回から彼を投入したことにフィリーズの覚悟が透けたが、ここでベッツが四球を選ぶと、同点。相手にもミスが出た。

7回、満塁の場面で押し出し四球を選び、歓喜の表情を見せたベッツ 【Photo by Harry How/Getty Images】

 際どい球も多く、あの四球はベッツならでは。彼にはこんなバックグラウンドもある。

 ベッツは2011年のドラフトで5巡目、全体172位でレッドソックスから指名された。

 当時、いまよりも体は華奢で、地元メディアを中心に、「なんであんな体の小さな選手を指名したんだ?」と声が飛び交った。

 ベッツは8月にインタビューしたとき、「そんなこと俺に言われても」と苦笑したが、レッドソックスにはもちろん、それなりの根拠があった。

 いまはかなり一般的になったが、当時、レッドソックスはボストンにある脳科学の研究所と提携して、ドラフトでの指名を考えている選手に脳のテストを受けさせていた。

 するとベッツは、球種やストライク、ボールの判別において、突出した数値を叩き出したのだという。ベッツは、他の選手が判断するよりも早い段階でそれらを見抜く特殊な能力を持っていたのだ。

 球種が早く分かれば、当然、それだけ早く準備ができる。また、ストライク、ボールの見極めが早ければ、それはすなわち、選球眼の良さにもつながる。

 一度、その話を本人にも聞いたことがあるが、「ゲーム感覚でスペースキーを押すだけ。何を計測しているかも分からなかったし、他人にどう見えるか分からないから、比べようがない」と戸惑いの表情を浮かべたが、あの瞬間、そんなエピソードが蘇った。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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