新天地でも“よくしゃべる”藤田譲瑠チマ ドイツで評価を高めて日本代表の主力へ
スタジアムの喧騒も突き抜ける甲高い声
試合が始まってやや経ったあたりから、プレーが切れるたびに少しばかり甲高い声が耳に残った。チームメイトに対して要求する声だろうか。最初はそこまでではなかったが、試合が進むにつれてその声が大きくなるのを感じる。甲高い声は風を切るようにスタジアムの喧騒を突き抜け、近くにいたサポーターも指をさして驚いているようだった。
誰が発しているのか。ピッチを見渡すと、身振り手振りを交えながらチームメイトに声をかける藤田譲瑠チマの姿があった。
いくつかの欧州リーグを取材した経験があるが、ブンデスリーガというのは特に、試合中のサポーターの歌声がスタジアム全体に響くリーグだ。Jリーグに近いと言ってもいいかもしれない。プレー中、サポーターが常に応援歌を歌っているため、ピッチ上の選手間でも声が通らないことがあるとよく聞く。それに加え、記者席は2階席であることが多く、サポーターの歓声とピッチとの距離感があいまって、記者が選手の声を聞く機会はあまりない。
だが、4万2100人収容のサッカー専用スタジアムであるヴェーザー・シュタディオンは記者席が1階席に設けられており、クリアボールが近くに飛んでくるほどの距離感で試合を観戦できる。目の前のサポーターが興奮して立ち上がるとピッチが見えなくなるという難点もあるが、選手たちの声が聞こえてくる、ドイツでは数少ないスタジアムなのである。
どんな環境でも自分のスタイルを貫ける
ただ、シント=トロイデンとは違い、トップチームのピッチ上に日本人のチームメイトがいない状況で(18歳のU-20日本代表ニック・シュミットはBチームのザンクトパウリⅡが主戦場)、ましてや加入1年目である。新たなチームでどこまでその行動を示せるかが気になっていた。
しかし、それはすぐに杞憂に終わる。2025-26シーズンが開幕するや、すぐさまダブルボランチの一角に収まった藤田は、これまでと全く変わらない姿を見せていた。ときに言い合いながらも積極的に仲間に声をかけ、パスがずれれば両手を大きく広げて「ここに出して」と合図を送る。ディテールをすり合わせるような1つひとつの動きには、チームを鼓舞するような力強さがあった。
ブレーメン戦ではコーチングの声も聞こえてきて、あらためてすごみを感じた。どのチームにいようが、藤田は関係なく自分のスタイルを貫けるのだ、と。言葉にすれば簡単だが、自分に置き換えて考えてほしい。新しい学校、新しい会社で、以前と全くやり方を変えずに最初から行動に移すことは決して簡単ではない。周りの目を気にして委縮してしまう人もいるだろう。
でも、藤田は違った。どんな環境に置かれても、自身のアイデンティティをしっかりと示すことができるのだ。