スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「GMにトレードを進言しました」欲しかった大砲と左腕 元巨人スカウト部長が明かす秘蔵エピソード

永松欣也

巨人2軍監督時代の岡崎郁氏(写真右)。2017年から2018年まで巨人のスカウト部長を務めた 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 2017年から2018年まで巨人のスカウト部長を務めていた岡崎郁氏に選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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「編成もスカウトもどちらも勉強してくれ」

 2015年の10月半ばだったでしょうか。2006年から10年間指揮を執った原(辰徳)さんの監督退任が発表されました。私はその頃、二軍監督として宮崎でフェニックスリーグを戦っていたのですが、GMの堤(辰佳)さんが来られて、こう告げられました。

「来年から高橋由伸が監督になる。体制も一新される。二軍監督は今年までとして、来年からはフロントに入って欲しい」

 引退後はヤンキースでも勉強させていただいて、そのあとは10年間ずっと現場一筋でやってきた人間です。突然ユニフォームを脱いで背広を着るということに、正直抵抗もありました。フロント業務に興味は持っていましたけど、でも現場の方が慣れていますし、得意だし、居心地もいいものです。人間誰しも現状は変わらない方がいいですよね(笑)。変化というのはチャンスでもありますけど、最初は不安も戸惑いもあるものですから。

 ですが、ユニフォームは永遠に着られるものではありません。いつかはユニフォームを脱いで現場を離れる日が来るわけですから、そういうタイミングではあったのかなとは思います。

 2016年から私の肩書きは「編成本部アドバイザー」。編成という肩書きではありましたが、堤GMからは「編成もスカウトもどちらも勉強してくれ」と言われていました。翌年からスカウト部長になることが決まっていて、それを念頭に置かれた勉強期間でもあったのです。

 編成とスカウトの違いを簡単に説明すると、編成の仕事はトレード、FAで獲る選手を調査することが主な仕事になり、見る対象はプロの選手になります。スカウトはドラフト対象選手を見ることが仕事で、その対象は高校、大学、社会人、独立リーグなどの選手ということになります。

「どちらも勉強してくれと」は言われていましたが、重きを置いていたのはスカウト活動の方でしたね。

欲しかった若き日の山川、中日で活躍中の左腕

2015年のオープン戦で本塁打を放った山川穂高(当時西武)。プロ2年目のシーズンは1軍出場1試合のみに終わっていた 【写真は共同】

 編成にはピッチャー出身の担当もいましたから、私は「野手の方を見てほしい」と言われていました。それでFAの獲得調査をしていたのが当時日本ハムの陽岱鋼とオリックスの糸井嘉男です。先ほど話したとおり、翌年からスカウト部長になることが決まっていましたから、担当スカウトと一緒に全国のアマチュア選手を見て周りつつ、並行して日本ハムとオリックスの試合もチェックしていました。この2人はこの年のFA戦線の目玉でしたし、キャンプの頃からずっと見ていました。

 私はピッチャーの方には関与していませんでしが、この年はDeNAから山口俊、ソフトバンクから森福充彦を獲って、陽も含めて3人の選手をFAで獲った年でした。

 トレードで欲しいと思ったのが西武の山川穂高(現・ソフトバンク)です。1年目にファームでホームラン王を獲ったりしていましたし、二軍監督として見ていて「良いバッターだなぁ」とずっと思っていましたから。当時はまだ3年目で、前年は一軍出場が1試合だけ。この年も確か開幕は二軍だったと思います。実績もまだなかったのでチャンスはあるかなと思い、GMにトレードを進言しました。

 トレードの話は私が直接相手球団の担当者とするわけではありません。編成は他球団の選手を調査して進言するまでが仕事。そこから先はGMの仕事になります。

 このときは巨人と西武のGM同士で話しをしたと思うのですが、西武が出せないと言ったのか、求められた交換相手を巨人が出せないと言ったのか、そこはGM同士しか分からない話ですけど、結局上手くまとまりませんでした。

 山川はその年の途中から一軍でもホームランをバンバン打つようになって、程なくリーグを代表するホームランバッターになりました。

 もう一つ思い出すのが今年中日で活躍した松葉貴大です。当時はオリックスで投げていて、チャンスがあればトレードで欲しいなと思っていましたが、こちらも実現はしませんでした。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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