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チェルシーのミスを見逃さなかった三笘のプレーが“わずかな差”を生んだ 鎌田は王者撃破に貢献

森昌利

殊勲の三笘に代えてウェルベックを投入した大胆策が奏功

三笘に代わって後半22分に投入されたウェルベックが、同点弾、さらにダメ押しの3点目と大活躍。ヒュルツェラー監督の采配が見事に的中した 【Photo by Clive Mason/Getty Images】

 もちろん、10人となったチェルシーは1点のリードを必死に守ろうとした。そこでヒュルツェラー監督は思い切った交代策を決断した。三笘が生み出した“差”をより大きく広げようと試みたわけだ。

 ただそれは、皮肉にも数的有利を生んだ三笘を下げ、34歳ベテランFWのダニー・ウェルベックをピッチに送り出すという決断だった。数的有利を活かしてとにかく同点弾が欲しい状況となったことで、32歳ドイツ人知将はストライカーを投入したわけだ。

 この交代と同時に、通常は右サイドで起用され、中央に切り込んで利き足の左足でシュートを打つのが得意なヤンクバ・ミンテを左サイドにスイッチし、その自慢の左足を強烈なクロスの供給源とした。

 結果的に、純粋なストライカーであるウェルベックの起用と、ミンテを左サイドに移した変更が見事に功を奏した形になった。

 後半32分、ゴール前に飛び込んだウェルベックがミンテの高速クロスに合わせて、センターフォーワードのお手本のようなダイナミックなヘディングで同点弾を奪った。

 さらには、後半アディショナルタイム2分に飛び出たマクシム・デ・カイペルの逆転弾を挟み、ウェルベックが同10分にもダメ押しの3点目を奪取。エースの三笘をベンチに下げた英断が見事に結果に反映された。

 8月31日にはホームでマンチェスター・シティに先制されながら2-1の逆転勝利を収めたが、あの時も32歳監督が後半16分の時点で4人の選手を一気に投入して“違い”を生み出したことは記憶に新しい。そして今回のチェルシー戦でも、三笘の代わりにウェルベックを送り出すという大胆な策を打って、逃げ粘ろうとした10人のチェルシーに引導を渡した。

 チェルシーの小さなミスを突いて11対10の状況を生み出した殊勲の三笘を下げて、その代役となったウェルベックが2点を奪ったのだから、この交代策が称賛されたのも頷ける。

 近年のブライトンは、有望な若手をプレミアリーグの舞台で鍛えて飛躍させるクラブとして定評がある。こうした機を見るに敏な感性を持ち、しっかりギャンブルを成功させて勝利を呼び込むヒュルツェラー監督にも、ここから羽ばたいていった有望選手と同様、将来はリーグ優勝を争うクラブを率いる可能性がありそうだと感じた。

 三笘はこの試合で決定的な違いを生む鋭さを見せて相手の退場劇のきっかけを作ったが、ウェルベックに点を取らせる策を監督が選択したため、本人にとっては不本意であろう後半22分という早い時間帯での交代となった。しかしベンチに下がった後も、味方がゴールを決める度に満面の笑みを見せて、逆転勝利をベンチから大いに楽しんでいるように見えた。

 それでも試合後の取材はお預けとなった。やはりピッチの上で勝利に直接貢献できなければ話はできないという気持ちなのだろう。残念ではあるが、次戦のウルバーハンプトン戦での活躍を期待したい。

リバプールを破って唯一無敗を守るパレス指揮官の評価が急上昇

中盤センターで先発起用された鎌田はリバプール戦の勝利に貢献。守備では相手にしつこく食らいつき、攻撃に転じれば積極的に前に出た 【Photo by Gaspafotos/MB Media/Getty Images】

 先週、「リバプールの無敗は偶然の産物ではない」とレッズを援護する内容のコラムを書いたのに、無敗対決となった第6節のクリスタルパレス戦で不覚を取り、1-2で敗れた。

 しかしこの試合はクリスタルパレスを褒めるべきだろう。リバプールのアルネ・スロット監督も「GKがアリソン(・ベッカー)でなければ3~4点取られていておかしくなかった」と語ったように、特に前半はクリスタルパレスが圧倒していた。

 選手がチームとして完全にひとまとまりになり、今季は試合終盤の決勝弾が続いていたリバプールを相手に、クリスタルパレスは逆に後半アディショナルタイムに勝ち越しゴールを挙げて勝利した。

 日本代表MF鎌田大地も、その見事なクリスタルパレス・イレブンの一員として素晴らしいパフォーマンスを見せた。もともと運動量の多さと知的なポジショニング、そしてボールを扱う高い技術が特徴的な選手だが、リバプール戦では常に足を動かし、プレスをかけ、前に出て、相手にとって本当に嫌な選手になっていた。

 このチームもまたオリバー・グラスナーという素晴らしい監督に率いられている。今夏はエースのイングランド代表MFエベレチ・エゼをアーセナルに引き抜かて戦力低下が心配されたが、リバプールに勝ってリーグで唯一無敗を守り、3勝3分の勝ち点12で5位から3位に上昇。文句のつけようのない開幕ダッシュを決めた。

 優れた監督が指揮するチームは、各選手が自分の役割をしっかり理解し、動きに無駄がなく、付け入る隙がない。51歳オーストリア人監督は、正直に言えば格としては中堅以下であるクリスタルパレスをしっかりと掌握し、プレミアリーグで辛抱強く“スモール・マージン”を競う戦いを制し、そして王者リバプールにも土を付けたというわけだ。

 こうしてアウェーでチェルシーを破ったヒュルツェラー監督と同様、グラスナー監督もフランクフルトをヨーロッパリーグ優勝に導いた功績もあらためて注目され、その評価がイングランドで急上昇している。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2025-26で25シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル30年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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