チーム移籍の天国と地獄——なぜサインツは成功し、ハミルトンは苦しむのか
移籍の成否を分ける3つの要因
ところが今季は、トップ4チームの中でフェラーリだけが無勝利だ。それでもしばらく選手権2位にとどまっていたが、今回のアゼルバイジャンでメルセデスに逆転されて3位に後退。現在4位のレッドブルが復調著しいだけに、トップ勢最下位まで落ちる可能性は十分にある。
ハミルトンにしてみれば、これほどの戦闘力低迷は想定外だったことだろう。対照的にウィリアムズとザウバー、特にザウバーはシーズン中盤以降の戦闘力の伸びが著しい。最下位で今季を終えることも覚悟していたヒュルケンベルグにとっては、ポジティブな意味で想定外だったことになる。
もう一つはドライバー自身の適応力である。たとえフェラーリの戦闘力が去年のレベルではなかったとしても、それ以上にハミルトンは新たな環境への適応に手こずった。乗り慣れたメルセデスとあまりに違う車体特性。初めてのフェラーリ製パワーユニット、加えて女房役である担当エンジニアをはじめ、周囲は知らないスタッフばかり。ハミルトンは次第に孤立感を深めていったように見える。
そして最後の要因には、「運、巡り合わせ」を挙げたい。世界で20人しかいないF1ドライバーが鎬(しのぎ)をけずる中で結果を出すには、運、不運はどうしても大きな要素となるからだ。それで思い出されるのが、フェルナンド・アロンソである。ドライバーとして全盛期にフェラーリ、マクラーレンとトップチームを渡り歩きながら、アロンソは頂点を極められなかった。
2007年のマクラーレン、2010年、2012年のフェラーリでタイトルを逃したのは、本人の性格や、チームの戦略ミス、信頼性の欠如などの要因もあった。しかしアロンソほどの才能の持ち主が、20数年のF1キャリアでタイトル獲得が初期のベネトンでの2回のみという結果を見るとき、アロンソは移籍のたびにつまずき続けたと言わざるをえない。
渡り歩いて強くなる——サインツという稀有な存在
ただし、プロスト現役時代のこの4チームはいずれもタイトルを争える実力があったことを思えば、サインツの記録の方が偉業と言ってもいい。
さらにいえばサインツの4回の移籍はほぼ全て、自らも意思ではなくチーム側の都合で押し出されたものだった。いわば逆境からの再出発を、その都度強いられたことになる。そして毎回蘇り、さらに強いドライバーになった。
移籍先の伸び代を見極め、全く違うマシン挙動やチーム文化にもサインツはきっちり適応してきた。そして運や巡り合わせにも恵まれた。移籍が天国にも地獄にもなる世界で、これほど環境に適応し成果を出し続けるドライバーは本当に稀だ。
角田の「次の選択」もまた、彼のキャリアを決定づける分岐点になるかもしれない。
(了)