改革10年目の転機を迎える日本バスケ協会 島田慎二・新会長就任が持つ意味

大島和人

島田慎二Bリーグチェアマンが、10月から協会の会長も兼任する 【写真は共同】

 2030年に創設100周年を迎える日本バスケットボール協会だが、2015年は特別に大きな「節目」だった。日本協会は2014年秋に国際資格停止処分(制裁処分)を受け、15年には全幹部が辞任する完全なリセットをしている。改革の大ナタがふるわれ、二つに分立していた男子のトップリーグが合流。16年秋には「B.LEAGUE(Bリーグ)」が開幕した。

 そこから日本バスケはほぼ右肩上がりの成長を遂げている。観客数、プロクラブの数が増え、全国でアリーナの新築・大規模な改築が相次いでいる。競技面でも女子日本代表は21年の東京オリンピックで銀メダルを獲得。男子代表も23年のワールドカップ(W杯)でアジア最上位に入り、パリ五輪出場を果たした。

 しかし人は移ろい、組織は転ずる。Bリーグにも日本協会にも2015〜16年の「リセット」「立ち上げ」に参加したメンバーはほとんど残っていない。

 この9月26日にはBリーグ、27日には日本協会の新体制が発表された。「二刀流」で両組織のトップを担うのが現Bリーグチェアマンの島田慎二氏だ。それは日本バスケの歴史にとって終わり・区切りで、同時に未来に向けたスタートでもある。

島田チェアマンが「最後の2年」に入るBリーグ

Bリーグの新理事は「役員候補者選考委員会」主導で選ばれた 【撮影:大島和人】

 まず、9月26日には「B.LEAGUEチェアマン、および新理事・新監事発表記者会見」が行われた。こちらの新体制は後述する日本協会ほどの変化がない。島田チェアマンが「続投」し、4期目に入る。なおBリーグの理事は最大4期8年と定められて、彼にとっては最後の任期だ。

 理事14名の顔ぶれを見ると、新味もあった。役員候補者選考委員会の委員長を務めた野宮拓弁護士はこう説明している。

「社外理事に関しては助言機能を求めてきたところがあり、従前はチェアマン候補者の意見も踏まえた上で選定してきた経緯がございます。今回も『経営者を招く』というような大きな方針については協議していますが、具体的な人選は委員会主導とさせていただいています」

 「経営者を招く」という枠組みの中でも、多様性を感じ取れる人選だ。小川嶺・新理事はB1レバンガ北海道のオーナー兼会長だ。桜井直哉・新理事はB2横浜エクセレンスのいわば雇われ経営者で、それぞれの利害や視点が違う。また立花陽三・新理事はプロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルス、Jリーグ・ヴィッセル神戸の社長を務めた経歴の持ち主で他競技の知見がある。

 新理事の中でも特に注目度が高いのは岡田優介氏だろう。彼は日本代表経験もある元プロバスケットボール選手で、2024−25シーズンまで現役だった。2013年に日本バスケットボール選手会を立ち上げた初代会長で、知識や熟慮の伴った「異見」を発信できる人物でもある。

 理事14名の中でも島田チェアマン、佐野正昭専務理事、増田匡彦常務理事はリーグの「中の人」で、様々な施策を自ら手掛ける当事者だ。一方でクラブ枠、有識者枠の理事は「お目付け役」の色合いが濃い。リーグの方向性がおかしければそれを正し、必要ならばならばチェアマンに対して「ノー」を言うべき立場だ。

 新しい理事会の構成を見ると「馴れ合い」では終わらない、活発な議論を期待できそうな顔ぶれだ。

「強化」へのテコ入れを強調する新会長

田臥勇太(右)には選手経験を生かした理事会内での発信が期待される 【写真は共同】

 翌27日には、日本バスケットボール協会の定時評議員会がオンライン参加者も含めた混合(ハイブリッド)で開催され、新役員人事が(賛成多数でなく)満場一致で承認された。こちらはかなり大きな変化があった。

 評議員会後に行われた記者会見で島田新会長はいわゆる「マニフェスト」をメディアに披露したが、強化に関する言及が多かった。彼はこう述べている。

「強化のための海外遠征、環境整備にもしっかり投資をしていきたい。今までは資金的に余裕がなくて……ということもあったと思いますけど、チャレンジしていきたいです」

 日本協会の新理事には宇都宮ブレックスの現役・田臥勇太選手、トヨタ自動車アンテロープスの大神雄子ヘッドコーチが入った。バスケファンには説明不要だろうが、男女それぞれの「レジェンド」的な存在だ。

「Bリーグに岡田さんに来ていただいたこともそうですけど、競技・強化に精通している方たちを入れていかないとダメだと強く思っていました。誰がいいだろうと話をする中で、田臥さんと大神さんがふさわしいということで、ほぼ満場一致で決め、ご本人にも快諾いただきました」(島田会長)

 強化に関して目先のゴールは、男女ともW杯(女子は2026年/男子は2027年)と、2028年のロサンゼルス五輪だ。なお男子のW杯予選はNBAのシーズン中に行われる試合が大半で、ここへのNBA選手招集は実質的に不可能だ。ただ世界大会はシーズンオフの開催となる。

「八村塁選手の不信感を払拭できるか」は日本協会が直面する課題で、さらに「代表に招集できるか」はチームが世界大会で好成績を挙げるポイントになる。ここについて、新会長は期待を持たせるコメントを残した。

「八村選手とは日本に来た時に私も会って、話もしています。ダイレクトのコミュニケーションを取れる関係には、この数カ月でなっています。そのタイミングでどうなるか、未来の話は読めませんけど、少なくともしっかりコミュニケーションを取りたい。日本を強くしていくことに対して前向きな話は聞いているので、期待しています」

 もっとも、先立つものは「お金」だ。日本協会はBリーグに比べて予算、収入とも潤沢とは言えない状況が続いていた。島田新会長はそこについて、こう述べている、

「相当な資金が掛かるので、就任のタイミングに際して準備してきた営業活動の成果もお見せして、投資をしていきたいと思っています」

発信、メディア対応をどう変えるか?

八村塁選手との関係改善は新会長に託される 【写真は共同】

 島田新会長の掲げるマニフェストには「日本で最も社会と繋がったオープンな協会へ」「資金・人材・DXの還流スキーム構築」という項目もある。彼は会見でそこをかみ砕いて、こう述べている。

「DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術を活用した根本的変革)ということでホームページの改訂をして、将来的にはできれば様々なスタッツ、データベースも連携させたい。今は情報が分断されているので、うまく連携・連動する仕組みも作っていければいいなと思っています」

 日本協会は男子代表、女子代表とも大会ごとにホームページが乱立し、日本サッカー協会や野球の「侍ジャパン」のような統合化がされていない。その課題はそれこそ2016年、17年から言われていることだが、新会長からそこへの言及があった。

 島田氏の特徴は旺盛な発信力だ。今までBリーグは協会と違って会見やブリーフィングに出席するメディアの選別をしてこなかった。彼個人も取材・会見に対しては間違いなくオープンな姿勢を取っている。私的な立場からの発信になることへの批判もあるが、「島田のnote」を通してファンの疑問やその時々の論点に対して小まめな発信をしてきた。

 Bリーグ側の役員候補者選考委員会を務めた野宮弁護士も選任の理由として「発信力」を揚げている。そこは引き続いて島田チェアマン、会長に期待される部分だろう。

 島田新会長もこう述べている。

「(マニュフェストに)『日本でもっとも社会とつながったオープンな協会』と書いてあります。毎月、理事会後のメディアブリーフィングはBリーグと同様やっていきたいと思っています。メディアの皆さんにも何でも聞いてくれという姿勢で、包み隠さず、できる限りオープンにしていきたい」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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