異色のセカンドキャリアを歩む元Jリーガー

“英雄”として生きる本田圭佑 ひたすら未来へ投資する唯一無二のセカンドキャリアの原点

木崎伸也

サッカー界のレジェンドでありながら、本田は投資家・起業家としても世界を飛び回っている。写真は自身が取締役を務めるmgh株式会社の新ブランド発表会見 【写真は共同】

 過去にはワールドカップ(W杯)優勝を公言するなど、「ビッグマウス」として知られる本田圭佑だが、高い目標を掲げ、そこに向かって人並外れた努力をする生き方は、ピッチから距離を置くようになった今も変わらない。正式に選手を引退したわけではないが、投資家・起業家として世界中を飛び回るそのセカンドキャリアは、まさに唯一無二と言っていい。「お金は回すもの」という思考の原点とは――。

『フォーブス』の長者番付の最上位を目指す

 2014年ブラジルW杯を目指す過程において、本田圭佑はことあるたびにこう公言していた。

「グループリーグ突破って、どんだけ低い目標なん⁉ 俺は優勝を目指しているから。俺は勝負事で2位でいいと思ったことはない。そんな目標なら参加しーひんほうがいい」

 当時、日本はまだW杯においてグループリーグを2回しか突破したことがなかった。地に足をつけて考えれば、ベスト8やベスト16が現実的な目標である。

 にもかかわらず、本田は優勝を口にしていたのだ。

 今となっては多くの選手が優勝を見据え、森保一監督も26年北中米W杯で“最高の景色”を見ることを目標に掲げているが、本田はいち早く大風呂敷を広げていた。

 その身の程をわきまえないスタンスは、「セカンドキャリア」においても変わらない。投資家・起業家としてビジネス界の頂点を目指している。17年にミラノで食事をした際、本田はこう語ったことがある。

「サッカー選手には、高校で一番になるとか、Jリーガーになるとか、いろんな目標があるでしょうが、それをクリアするごとに次の目標を設定しなければならないですよね。それって二度手間でしょ? 最初から世界一になると考え、そこから逆算して毎日を過ごせばいいんです。

 ビジネスも同じです。経営で成功したいと思ったら、まずトップを知る。トップはなんぼ稼いでるの?と。『フォーブス』の長者番付を見たら9兆なんぼやから、じゃあ10兆を目標にしようという感じ。俺は天才じゃない。俺は努力の人間やから目標を設定しないといけないんです。努力で登っていくやり方しか知らない」

 サッカー人としてW杯を優勝目指す。投資家・起業家として『フォーブス』の長者番付の最上位を目指す。本田にとっては同じ発想なのだ。“究極のカッコツケ”が規格外のエネルギーの源を生み出す。

世界的俳優とアメリカでファンドを設立

23年には小学生年代を対象にした4人対4人の大会「4v4」を立ち上げた。将来的にはW杯の開催を目指し、育成年代の定番の大会になる可能性も 【写真は共同】

 現在39歳。本人はスピード感に満足していないだろうが、投資家・起業家として着実に壁を一つずつ越え続けている。

 個人投資家として、まず大きな成功となったのがクラウドファンディングを提供するマクアケへの投資だ。本田はサイバーエージェントの藤田晋社長と個人的なつながりがあり、同社の子会社だったマクアケに出資するチャンスに恵まれる。19年12月に同社が上場し、本田は個人投資家として大きな一歩を踏み出した。

 投資家からお金を集めて投資するファンドの活動も拡大している。18年7月、世界的な俳優のウィル・スミスとともにアメリカで「ドリーマーズ・ファンド」を設立。日本の金融機関や企業から資金を集め、アメリカのスタートアップに投資するというものだ。日本からシリコンバレーなどのインナーサークル(影響力や情報を持つ内部の集団)に入り込むのは難しいが、ウィル・スミスらの人脈を活かせばアプローチできる。報道によると約110億円を集め、イーロン・マスクが共同創業したニューラリンクや睡眠管理リングを開発するオーラに出資している。

 国内では、24年2月に日本のスタートアップに投資する「X&KSK」を立ち上げた。日本ではスタートアップ投資が冷え込んでいると言われている中、「ドリーマーズ・ファンド」の実績が評価されて約153億円を調達することに成功した。出資した地方の銀行にとっては、本田をイベントや講演に呼んで地域活性につなげるメリットもあるという。

 起業家としては、12年から続けているサッカースクール「ソルティーロ」と並行して、17年にNowDo社を設立。23年、小学生年代を対象にした4人対4人の大会「4v4」を立ち上げ、将来的なW杯の開催を目指してタイやインドネシアでも大会を実施している。au(KDDI)やユニクロといった大企業がサポートしており、育成年代の定番の大会になるポテンシャルを秘めている。

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著者プロフィール

1975年東京都生まれ。2002年夏にオランダへ渡り、2003年からドイツへ拠点を移してヨーロッパサッカーを取材。2009年に帰国して活動範囲を広げ、日本代表をテーマにしたスポナビにおける連載小説『アイム・ブルー』の執筆や、代理人をテーマにした漫画『フットボールアルケミスト』の原作を担当。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』『直撃 本田圭佑』など。

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