4回転に挑んだ東京選手権で優勝 住吉りをんが歩む、ミラノ五輪への道「一つひとつに集中」

沢田聡子

今季の成功を予感した4回転トウループ

昨季から継続のフリーでは、植物の成長を表現した 【東京選手権 住吉りをん フリー】

 9月20日のフリー、最終滑走者として演技に臨もうとしている住吉に、岡島コーチは「約束して」と語りかけた。

「絶対昨日みたいに余計なことを考えないで。最後まで、余計なこと考えないで」

 ショートで「嫌な予感」から小さなミスにつながったことをふまえた師の言葉を念頭に置き、住吉はスタート位置につく。最初のジャンプであるダブルアクセル+3回転トウループは少し詰まった着氷になり、セカンドジャンプが軽度の回転不足と判定された。続いて挑んだ4回転トウループは、重度の回転不足となり転倒。

 立ち上がりにミスが続いたが、住吉は崩れなかった。その後のジャンプは2つ回転不足があったもののすべて着氷、スピンはすべてレベル4を獲得。植物の成長を表現する『アディエマス』(シェイ=リーン・ボーン氏振付)を、恵みの雨に対する喜びを表現するクライマックスまで、情緒豊かに滑り切った。喝采の中、腿に手を置き下を向いた住吉からは、ハードな連戦を乗り切った安堵感がにじみ出ていた。

 フリー133.83、合計200.83という得点で優勝した住吉は、フリーで少し緊張していたことを明かした。

「自分を客観視した時に、ロンバルディアの時より完全に集中しているモードではないような感じがしたんですけど、それでもしっかり『一つひとつに意識を持っていく』というふうにして」
「一つひとつ、やることに対して淡々とできたので、嫌な感覚っていうのは全くないままいけたかなと思います」

「今日の出来は、すごく自信になるなと思っていて」と住吉は口にした。

「連戦の疲れもあって、(ロンバルディア杯の開催地イタリアから)帰ってきてから、フリーが全然いい練習を詰めていなくて。いい曲かけの通しが一度もないままここに臨んだので、もう本当にどうなるかわからないという状態でした。どうなるかわからないからこそ、『一つひとつに集中しよう』というマインドになれるようになってきたのが、今までと全然違うのかなと思います」

 住吉は2年ほどメンタルトレーニングを続けており、普段の生活から焦らないように心掛けているという。また「演技を一つひとつイメージトレーニングすることで、そのイメージの通りに体が動くようになってきた」ことも大きいと語った。

 また4回転トウループについては、「すごく空中では浮く感覚があって」と振り返る。

「『あ、これはいいぞ』と思ったんですけど、すごく空中が良かっただけに、まだあと一歩降り切れなかったのが悔しいです」
「本当にどんどん感覚も良くなっていますし、今日の空中の感覚からいくと、もう『今シーズン、降りることができそうだな』という感覚もあるので。1本試合で降りたら、その感覚がより良くなるかなと思うので、グランプリでしっかり降りられるように調整したいなと思います」

 住吉は、グランプリシリーズ第1戦フランス杯(10月17~19日、アンジェ)、第6戦フィンランド大会(11月21~23日、ヘルシンキ)にエントリーしている。グランプリシリーズの上位6名が出場するグランプリファイナル(12月4~7日、名古屋)進出の可否は、ミラノ・コルティナ五輪代表選考にもかかわってくる。「自国開催のファイナルということで、『絶対に出たい』という気持ちが強い」としつつ、住吉は「でも」と言葉を継いだ。

「『ファイナルに出たい』という気持ちで(グランプリシリーズ初戦のフランス杯に)いってしまうのは、それこそ余計なことだと思うので。 “フランス杯”と一括りというよりも、フランス杯・ショートの一歩や一つの動きという、その一つひとつに集中した先に、ファイナルがあるのかなと思います」
「オリンピックにいくということが、今季の一番の目標なので。ファイナルも、その段階の一つだと考えている。そのために、一つひとつ段階をこなしていけたらなと思います」

 東京選手権の取材対応で、住吉は「一つひとつ」という言葉を何回口にしただろうか。一歩一歩、着実に歩む道がミラノにつながっていると、住吉は信じている。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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