泥にまみれてつかんだ代表権 フォルティウスが挑む「最後の関門」
崖っぷちからの逆襲が示したもの
そして迎えた今回の代表決定戦、初日はまさかの2連敗スタート。北京の再現が頭をよぎる中、彼女たちは不思議と冷静だった。吉村は「負けたら終わりという状況は、この4年間で何度も経験してきた。そこから逆転する力を私たちは持っている」と自らに言い聞かせたという。ヴァイススキップの小谷優奈も「誰一人うつむかなかった。ここからが私たちの本領だと信じていた」と振り返る。
実際、そこから2連勝でタイブレークに持ち込み、ロコ・ソラーレを撃破。決定戦でも1敗すれば終わりという場面から、SC軽井沢クラブを連破して日本代表の座をつかんだ。吉村は「プレッシャーの中で最後まで戦えたのは、このチームだからこそ」と語り、勝利の余韻に浸った。まさに「崖っぷちで強くなる」ことを証明する戦いだった。
勝負の分かれ目となった「数センチ」
「シミュレーションで繰り返し投げてきたショット。その通りの場面がきた。自分を信じるしかなかった」と吉村は言う。
小谷が「ラインはここ、石はやや外寄り」と情報を送り、スイーパーたちが集中した面持ちで氷を見つめる。吉村は滑らかなフォームでストーンを放った。石が手を離れた瞬間、吉村は「もうスイープとコールに任せるしかない」と思った。
スイーパーは必死に氷を削り、吉村の声に呼応する。観客の視線が一つの石に集中し、時間が止まったかのような数秒。ストーンは相手の石をわずかにかわし、ハウス中央に吸い込まれるように止まった。差は2、3センチ。勝敗を分けたのは氷上に刻まれた細やかな軌跡だった。
吉村は「緊張が一気に解けて、嬉しさがこみ上げた」と語る。小谷も「最後の石が止まった瞬間、涙が出そうになった」と声を詰まらせた。互いを信じ抜いたチームワークと、想像を超える集中力が導いた瞬間だった。
忍耐の4年間が築いた強さ
こうした苦難は、彼女たちを精神的に強くした。小谷は「今回の大会は『負けたら終わり』という連続だったけど、誰一人弱気にならなかった。メンタル面での成長を実感した」と胸を張る。忍耐の日々が、土壇場での冷静さと粘り強さを育んだのだ。
さらに環境面でも変化があった。チーム結成当初はスポンサーが1社だけだったが、今では20社以上に支えられている。「スポンサーやファンのおかげで競技に100%集中できる。その支えに少しでも応えられたことが嬉しい」と吉村は語る。恩返しの気持ちが、彼女たちの背中を押し続けている。