東京2025世界陸上 “ツウ”の視点

右代啓祐が捉える“三位一体の芸術”やり投 北口榛花のすごさとは

吉田昭彦

日本人離れした北口榛花のスタイル

全身で喜びを爆発させる可憐さも、北口の人気の理由のひとつだ 【Photo by Hannah Peters/Getty Images】

 今大会での注目といえば、何と言っても北口選手ですね。僕と同じ北海道出身です。彼女のすごさは、大きな体格と身体のしなやかさ。彼女の高校時代に出会ってからずっと感じているのですが、全身を大きく使ってパワーを出し、さらにその身体をしっかりとコントロールして投げるスタイルは、日本人離れしていて素晴らしいですね。

 さらに彼女がすごいのは、本番に強いということ。120%の力を出すという「本番力」は、目を見張るものがあります。練習でそこまでの距離を投げていなくても、本番で自分の力を超えたものを出せる。ゾーンに自分を入れるのがうまいんでしょうね。

 今年は、肘の故障があって2カ月くらい投げられなかったようですが、8月のダイヤモンドリーグで復帰し、ファイナルでは60m72を投げました。もうかなり回復しているようなので、今大会での故障の影響はもうないだろうと思っています。「北口さんはもう戦闘態勢に入っているな」と僕は感じています。

スタジアムの熱気で選手と観客が一体に

会場ならではの観客と選手の一体感をぜひ味わって 【Photo by Michael Steele/Getty Images】

 僕は、トラック種目もフィールド種目も行う十種競技の選手としてやってきましたが、会場の雰囲気を観客のみなさんが作ってくれていることをいつも感じています。シーンとした静寂の中で投げたい選手もいますし、観客席の応援を煽って投げる選手もいます。手拍子で熱気が増した中でビッグスローを出して、歓声や拍手が湧き上がった瞬間は、まさしく観客と選手が一体化する瞬間ですよね。全員が一斉に走るトラック競技と違って、フィールド種目はひとりひとり順番に行うもの。その瞬間は観客の声援も自分だけに向けられています。パワーをもらっている感じがしますし、投げたやりには観客のみなさんの思いも乗っている気がします。

 スポーツの楽しみ方にはいろいろな形があると思います。でもやはり現場でその空間を感じ、生の選手の姿を見るというのが、何よりスポーツの魅力を体で感じることができると思うので、可能ならばぜひ国立競技場に足を運んでもらいたいですね。今回お伝えした、僕のような競技者から見る観戦ポイントの答え合わせをしながら、自分ならではのオリジナルな視点を見つけてもらって楽しんでもらえればと思います。

(企画・編集/リファイド)

右代啓祐

【提供:右代啓祐】

五輪2大会連続出場。アジア大会2連覇。196cm・95kgの恵まれた体格を生かし、10年以上もの間トップ選手として君臨する陸上・十種競技の第一人者。大学から十種競技に取り組み、全日本選手権8回優勝。翌2011年、18年ぶりの日本記録更新(日本人初の8000点オーバー)して自身初となる世界陸上出場。キング・オブ・アスリートと称される十種競技の「ワールドクラスの日本人選手」として台頭する。

その後も、2012年には48年ぶりとなる日本人選手として五輪初出場。2014年・2018年アジア大会では金メダルを獲得するなど目覚ましい活躍を続けている。現在は、国内主要大会に出場する現役選手として日々鍛錬する傍ら、母校でもある国士舘大学では陸上部の指導はもちろん、同校准教授として教壇にも立つ他、アスリートとしての陸上競技の競技力向上・普及活動にも注力している。

2/2ページ

著者プロフィール

元出版社勤務、現在はフリーランスで活動。サッカー専門誌をはじめ、モータースポーツ、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングなどの雑誌作りに携わる。趣味はサッカーや陸上の観戦と、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングの競技参加。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント