チームを立て直した、新人監督たち

「ここまで来たら絶対に...」阪神、巨人と三つ巴の優勝争い 山田哲人の4打数連続本塁打 元ヤクルト監督・真中満が明かす15年シーズン舞台裏

永松欣也

2015年10月2日、本拠地・神宮球場で胴上げされるヤクルト・真中満監督。14年ぶりのリーグ優勝だった 【写真は共同】

 プロ野球の世界では、成績が奮わなければ監督交代となることも珍しくない。球団は新たな監督にチームの立て直しを託すわけだが、監督経験のない「新人監督」にそれを託す場合もある。2014年に2年連続最下位となったヤクルトは、一軍監督経験のなかった打撃コーチの真中満にそれを託した。新人監督・真中満は、チーム状態をどのように捉え、どこから立て直しに着手し、どのようにシーズンを戦ったのだろうか? 監督初年度にチームを14年ぶりの優勝に導いた真中氏に、当時を振り返ってもらった。

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開幕戦、山田が初回初球スチールの意味

 私にとって監督初陣となる広島との開幕戦。先発を託した小川は7回無失点の好投で期待に応えてくれました。2点リードの8回に秋吉が同点に追いつかれましたが、その後はオンドルセク、バーネットが無得点に抑え、延長11回にミレッジが決勝タイムリー。開幕戦に勝利することができました。

 延長までもつれた試合時間は約4時間半。初勝利の喜びはもちろんありましたが、「これがあと142試合あるのか……」と思うと、ちょっと気が遠くなりました。

 続く2戦目、3戦目に敗れてしまいましたが、この開幕戦に勝てたことは大きかったと思います。良いスタートが切れないと「今年もまた……」という空気になりかねないと思っていましたから。よく1年間のプランを立てて戦えと言われますが、強いチームであれば8月、9月のことなどを想定しながらシーズンを戦っていけると思いますが、我々はそんな先を見据えて戦う余裕はありません。先のことは考えずに3・4月の戦いに重点を置いていた部分はありました。

 結局3・4月は15勝13敗で貯金2。課題の投手陣は開幕から14試合連続3失点以下のプロ野球記録を樹立。本拠地7連勝、3度のサヨナラ勝ちなどもあり、4月終了時点で首位と1ゲーム差の2位と、絶好のスタートダッシュを切ることができました。

 その要因の一つに、山田が開幕戦の初回に盗塁を決めたことが挙げられます。実は試合前に三木コーチにこんなことを言われていたのです。

「監督、初回に山田が出塁したら、どんな状況でも初球に走らせたいです」

 理由を聞くと、三木コーチはこう言いました。

「山田は秋からずっと走塁を意識してやってきたので、初回に塁に出て、初球に走ることによって、チームが『今年は行けるぞ!』という空気になるんじゃないかと思うんです」

 それを聞いて「なるほどな」と思いました。

 広島の開幕バッテリーは前田健太と会澤翼でしたが、1番の山田がセンター前ヒットを打つと、次のバッター川端(慎吾)の初球に走ってセーフになりました。そのときに手応えというか、やりたいと思っていた事が出来て、「今年のヤクルトはこうやっていくんだ!」という姿勢を見せることが出来ました。山田の盗塁によって、このシーズンの良い流れが作れたような気がします。

 一方で誤算もありました。それは主砲バレンティンの長期離脱です。前年に手術をした影響で開幕は間に合わないのは仕方がない、帰ってくるまでみんなで頑張ろうと思っていたのですが、4月末に復帰したと思ったらその試合で肉離れをして長期離脱。年間30本は打ってくれる計算が立つバッターでしたので、そうはもう痛かったです。また、もう1人の外国人ミレッジも開幕戦で決勝タイムリーを打ってくれましたが、その後早々に離脱。両外国人抜きの打線で戦うことを余儀なくされました。

 弱い投手陣を前年チーム打率1位の打線がある程度カバーしていかないといけない、ミレッジ、バレンティンを含めた上位打線で点を取っていかないといけないと思っていましたから、構想も大きく狂ってしまいました。

大きかった「ROB」の誕生

勝利の方程式の最後を締めたバーネット。2015年はリーグトップタイの41セーブをマークした 【写真は共同】

 GW明け頃から中旬にかけて9連敗を喫して最下位に転落した時期がありました。でも不思議とチームに悲観的な空気はありませんでした。どうにもならない力の差で負けたのなら悲観もしますけど、ちょっとした差で負けたという感じで、連敗しながらも次に繋げられる、「まだまだいける」という、そんなイメージを持っていました。

 連敗中は監督がピリピリするとチームの雰囲気も重くなるものです。重くなればなるほどチーム状態はどんどん下がっていきますから、とびきり明るく振る舞ったわけではないですが、あまり悲観的にならずに前を向いていたようが気はします。コーチ陣もそれは同じで、基本的にみんな明るい性格というのもありますけど、連敗中のコーチミーティングも非常に前向きな意見が飛び交っていました。

 開幕時は、8回はオンドルセク、9回はバーネットで行くことは決まっていて、秋吉も良かったのでその前を投げてもらっていました。ただ戦っていく中で、やっぱり後ろの3人の負担かが大きくなってきて、それでピッチングコーチの高津(臣吾/現・ヤクルト監督)さんの提案だったと思いますが、5月半ば辺りからロマンを後ろで使うことにしたのです。

 ロマンは先発もやったりリリーフもやったり、先発が早く崩れたときはロングもやってくれましたし、スピードもあってボールに力もある。本当に貴重なピッチャーでした。そんなピッチャーがオンドルセクとバーネットの前で投げてくれるとことで秋吉を休ませることが出来ますし、秋吉とロマンが投げればオンドルセクを休ませることもできます。彼が後ろに回ってくれたことでその辺を上手く回せるようになりましたね。

 こうしてロマンが後ろに回って、オンドルセク、バーネットとの「ROB」が誕生しました。3人ともよく頑張ってくれましたが、なかでもバーネットの復活が大きかったですね。2012年に最多セーブを獲ってから、この2年はちょっと不調で、前年には怪我もありました。でもこの年はキャンプから好調。新外国人のオンドルセクもいましたけど、「バーネットが良いですよ」、「抑えはバーネットじゃないですか?」とピッチングコーチの高津さんと伊藤智仁がと言うくらい、2人はバーネットを凄く信頼していました。長く一緒にやっていましたから、彼の持つ闘争心を2人が良い方向に導いてくれたと思います。

 6月に入るとバーネットの23試合連続無失点の活躍などで、11勝9敗とチームが息を吹き返しました。これは右肘手術で2年間チームを離れていた館山(昌平)の復活が大きかったですね。復帰戦となった巨人戦では白星こそ付きませんでしたが、チーム一丸になって戦って逆転で勝利。次の登板では1019日ぶりの白星。館山の復活がチームに勢いをつけてくれました。

 もう一つ大きかったのは、ソフトバンクから前年に移籍してきたアンダースローの山中(浩史)の活躍です。交流戦でプロ初勝利を挙げると、そこから無傷の6連勝。開幕前には全く白星を計算していないピッチャーでしたので、山中の活躍は嬉しい誤算となりました。先発投手陣が苦しい中でこの2人の存在は本当に大きかったですね。

 3・4月は良いスタートが切れましたが、5月は大きな連敗もあって大きく負け越し。そうして迎えた6月は今シーズンがどう転ぶかを占う大事な月でもありましたが、そこで勝ち越すことができました。これは2シーズン最下位だったチームにとっては大きな自信になりましたね。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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