8年ぶりの9秒台が示す桐生祥秀のリアル かつての「天才スプリンター」から「勝負師」へ

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自身4度目の世界陸上に臨む桐生祥秀 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

日本人初の9秒台ランナーが再びその価値を示す

 2025年7月5日に行われた陸上日本選手権の男子100m決勝。桐生祥秀が5年ぶりに日本一に返り咲いた瞬間、かつて“天才スプリンター”と呼ばれた男の名前が久々にトラックで響いた。そしてそれから約1カ月後の8月3日、山梨で開催された富士北麓ワールドトライアルで、桐生は100mを「9秒99」で走り抜け、8年ぶりとなる9秒台をマーク。日本人初の9秒台ランナーとして、再びその価値を数字で示してみせた。

 洛南高校時代に10秒01を記録し、2017年には日本人として初の9秒98をマークした桐生。その後は度重なるケガや体調不良、フォーム修正の苦闘により、表彰台から遠ざかる時間が続いた。だが30歳を目前にした2025年、再びトップスプリンターの座へと駆け上がってきた。

「個人(種目での出場)も久々なので、今年のレースの最高(の力)を出せれば、しっかりラウンドを踏んでいけると思っています」

 東京での世界陸上。桐生にとって “時差のない地元開催”は、調整面でも精神面でもかつてない好条件となる。そして「9秒99」という自信を手にした今、「通過点」としてこの舞台に挑もうとしている。「かつての名スプリンター」ではなく、「現在の勝負師」として。

「桐生=9秒台」は、過去の話ではない

8月3日に富士北麓ワールドトライアルに出場した桐生は、自身8年ぶりとなる9秒台をマークした 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 100mにおける「9秒台」は、いまなお日本陸上界における特別な領域だ。2017年に桐生が初めて切り拓いたその壁は、その後のサニブラウン・アブデル・ハキーム(9秒97/2019年、9秒96/2024年)、小池祐貴(9秒98/2019年)、山縣亮太(9秒95/2021年)らにも受け継がれていった。しかし2020年代に入り、サニブラウンを除いてコンスタントに9秒台を記録する選手はなかなか現れず、再び壁になりかけていた。

 そこに8年ぶりの9秒99で戻ってきたのが桐生である。この記録が特別なのは、「かつて速かった選手」が一過性の奇跡で出したものではないという点だ。2025年のシーズンを通じて練度を上げ、実戦の中で着実にタイムを縮めた結果でもある。桐生自身も「自己ベスト更新」に固執しているわけではなく、「勝負できる位置」に身体の状態を戻すことに集中してきた。世界陸上に向けて、「自らに期待することは何か」と問われた桐生は、こう答えた。

「より一層活躍することじゃないですか。やっぱり桐生祥秀という名前を広めるために、この大会はすごく大事だと思います」

 自国開催の世界陸上において、男子100mは多くの注目を浴びるレースとなるだろう。桐生にとっても、ベテランと呼ばれる年齢ではあるが、その走りに終焉のムードはない。むしろ「もう一度始めるための勝負」――そんな気迫が、スタートラインから漂ってくる。

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