メキシコ強豪クラブのコーチが見た日本代表戦「森保監督はプレッシング戦術を大きく進化させた」
スタメンから見えた狙いや強みとは?
両チームにとってすごくいいチャレンジになったと感じました。来年のW杯に向けたテストの場としては最高の内容だったと思います。僕はプーマスのスタッフたちと一緒に夕食をとりながら試合を見ていました。戦術的な議論になったり、お互いに情報を交換できたり、とてもいい学びになる試合でした。
――まずは日本代表について。スタメンを見てゲームプランや設定された狙いについてどのように感じましたか?
やはりすごく面白いチームですね。タケ(久保建英)や堂安(律)をはじめとしたスピードのあるアタッカーたちがたくさんいて、中央には上田(綺世)という非常に優れた9番タイプの選手もいます。中盤では遠藤(航)が多彩な動きで3バックと連携しながら広範囲をケアしているのも興味深いです。森保(一)監督は試合によってウイングバックの人選を変えたり、試合の中でシャドーとウイングバックを入れ替えたりもするので、戦術的な幅の広さもあります。全体としては非常に攻撃的で、プレー強度も高い優れたチームだと思います。強度という点においては、プレッシングが特筆すべき点ですね。森保監督は日本代表のプレッシング戦術を大きく進化させたと思います。
――確かに前半はメキシコ代表が日本代表のプレッシングにかなり苦しんでいるように見えました。
おっしゃる通りです。試合序盤、日本の激しいプレッシングに晒されたメキシコ代表はなかなかいいビルドアップができず、自陣でボールを奪われる機会が何度もありました。逆に日本にとっては敵陣内でのボール奪取からのチャンスが多くあり、それが試合全体を面白くした要因になっていたと思います。
――メキシコ代表は夏のCONCACAFゴールドカップ決勝トーナメントで採用していた4-3-3を継続していました。この試合の先発メンバーは現状のベストに近いように感じましたが、アレックスさんからはどのように見えましたか?
この試合にはいいメンバーが揃っていましたが、ベストかと言われるとまだわかりません。というのも、メキシコ代表は時間をかけてかなり多くの選手を試しているからです。9月シリーズの直前には、国内組の選手たちだけを集めてトレーニングキャンプを行っていました。ハビエル・アギーレ監督がサッカー協会やリーグの協力を取りつけて実現した、面白い試みです。
一方で、こうしたトレーニングキャンプはメキシコだからできた側面もあります。というのも、メキシコ代表には国内でプレーしている選手が多いという事情があるのです。アギーレ監督の目指すプレースタイルは明確で、ミスをできるだけ少なくし、ボールをテンポよく動かすという基本を全員が理解しています。守備に関しても非常にコンパクトで組織的ですし、ボール保持時はオーバーロード(攻撃の際、ボールの周囲に人数をかけて局所的な数的優位を作り出す戦術)を活かしたビルドアップを試みます。国内組によるトレーニングキャンプを通してこうした戦術はチームにより浸透したでしょうし、プレースタイルへの理解度が深まった状態で試合に臨めていたと思います。
――メキシコ代表の左サイドにはトルーカ所属の選手が3人同時に先発起用されていました。左サイドバックのヘスス・ガジャルド、左ウィングのアレクシス・ベガ、そして左インサイドハーフのマルセル・ルイスです。普段から一緒にプレーしている彼らを代表チームでもユニットして機能させられるのは、メキシコ代表の強みの1つですよね。
おっしゃる通りだと思います。トルーカは2024-25シーズンの後期リーグ王者になったクラブで、彼らは3人ともそこでレギュラーを張っている選手です。所属クラブでも今回の試合と同じように左サイドでユニットを組んでいますから、お互いのプレーを深く理解していて、連携も熟成されています。代表活動は現状のカレンダーだと約2週間、試合の準備にかけられるのも長くて1週間といったところです。そうなると同じクラブに所属している選手が3、4人いて、近いポジションでプレーできるとしたら大きな強みになります。
例えば約10年前のスペイン代表を思い浮かべてください。彼らのスタメンにはバルセロナ所属の選手が常に5、6人いましたよね。そうなればプレースタイルを構築するのは比較的簡単になります。一方で日本代表を見てみると、ある選手はイングランドで、別の選手はドイツ、また違う選手はオランダ、あるいはスペイン、日本など、普段プレーしている環境はバラバラです。なので、森保監督は数カ月に一度集まり、準備期間が1週間足らずしか与えられない状況で非常に難しいチームづくりに臨んでいると言えます。
ただ、ガジャルドやベガも来年のW杯でレギュラーが保証されているわけではありません。アギーレ監督はさまざまなメンバーや組み合わせを試しているので、W杯本大会でのスタメンが100%決まっているわけではない。基本的なチーム構造は変わらないと思いますが、今後さらに新たな選手が加わる可能性も十分にあると思います。
好ゲームを演出した両チームの戦術適応力
僕は3月にメキシコに来たばかりですが、リーグのレベルは非常に高いと感じています。自分の仕事がどんどん難しくなるのは勘弁してほしいところですけどね(笑)。われわれプーマスにはケイラー・ナバスやアーロン・ラムジーが在籍していますし、モンテレイにはセルヒオ・ラモスやセルヒオ・カナーレスがいます。他にもクラブ・アメリカにはアラン・サン=マキシマンが加入しましたし、国内リーグは大きく発展しています。
メキシコ人選手たちがヨーロッパに出て行かず、僕が挙げたようなトップレベルの選手たちとともに国内でしのぎを削れることは代表チームの成長にとっても大事なことだと思います。今回の招集メンバーでは半分以上が国内組(24人中14人)で、彼らは普段からお互いをよく知っていますし、標高の高い場所でのプレーやスタジアムの雰囲気、気候などに慣れていて、それらを利用して勝つための方法も熟知しています。なので、この比率を維持していくことは来年のW杯を戦うにおいても鍵になるのではないでしょうか。
――では、試合の中身に話を移しましょう。日本代表は序盤からハイプレスで主導権を握りました。先ほども少し話に出ましたが、メキシコ代表はビルドアップにかなり苦労していましたね。
前半のみならず60分までは非常にいい内容で、ほぼ日本代表がゲームを支配し、決定機もたくさんありました。日本代表が優れていたのはプレッシングだけではありません。ボールを奪った後の3バックと遠藤の連携がスムーズで、ビルドアップにおける前進も的確でした。
そのうえで広いエリアをカバーした両ウイングバックが極めて重要な役割を担っていました。3バックで戦うにあたっては、両ウイングバックがどれだけ高い位置で幅を取れるかが鍵になります。その点においては三笘(薫)も堂安も素晴らしかったですし、なおかつ右サイドでは堂安と久保が入れ替わりながら中に入ってくるので、メキシコ代表にとってはすごく守りづらかったと思います。サイドバックをタッチライン際にピン留めされながら、斜めに中へ入っていく久保や堂安をケアするのは非常に難しくなります。
――日本代表は序盤、南野と久保がメキシコ代表のセンターバック2人にプレスをかけ、上田がアンカーのエドソン・アルバレスへのパスコースを背中で消すような形で守っていました。かなりリスクのある守り方です。ところが、しばらくするとメキシコ代表はアルバレスをディフェンスラインの真ん中に落とし、3バックのような形でのビルドアップを試みます。ここで彼らも3-4-3のミラーゲームになるリスクを受け入れたように見えました。こうしたお互いの戦術への適応やリスク管理をどのように見ていましたか?
あの戦術変更は、最初の15分間でボールロストがあまりにも多かったメキシコ代表が決断を迫られたから起きたものだったと思います。彼らにとってはそうでもしなければボールを前進させられないという教訓になりましたし、いい解決策だったと思います。
負傷は残念でしたが、アルバレスからエリック・リラへの交代も理にかなった判断でした。というのも、リラは守備的MFが本職ですが、所属クラブのクルス・アスルではセンターバックとしてプレーしていたこともあるからです。アルバレスと同様、時にはディフェンスラインに入って中継役として振る舞えるリラは、アンカーとしてボール奪取も期待されていたと思います。
メキシコ代表が擬似的な3バックでのビルドアップを受け入れたことでマンツーマン気味のマッチアップになったら、今度は選手の質が違いを生む要素になります。ただ、それほど長くは続かなかったので、大きな差は生まれませんでしたね。
――「長く続かなかった」というのは、選手交代が影響したということでしょうか?
その通りです。メキシコ代表は60分に4人を同時に交代させました。これによって前半のリラも含めてフィールドプレーヤーの半数が入れ替わり、チームの特徴にも変化が生まれました。日本代表も細かく交代カードを切っていったことで、連携を維持しながら細かく戦術を調整していくのは難しくなりました。
メキシコ代表は前線に高さとスピードに特徴のある選手を入れたことで、ロングボールを増やしました。日本代表はセカンドボールの回収を重視しながら、プレッシャー下でもしっかりとボールをつないでチャンスを作ろうとしていました。実際にサンティアゴ・ヒメネス、イルビング・ロサーノ、ヘルマン・ベルテラメの3トップでしっかりプレッシャーがかかっていたと言えるかどうかは微妙ですが……。それはさておき、前後半とも両監督が「守備」を重視していたように見えたのは興味深いです。