「監督就任に迷いはなかった」2年連続最下位から優勝…新人監督のチーム再建術とは? 元ヤクルト監督・真中満が明かす舞台裏
解説者の言うことは気にしなくていい
ヤクルトの春季キャンプと言えば、野村監督時代に行われていた夜のミーティング、座学のシーンを思い出される方も多いかもしれません。私自身も野球技術のことはもちろんですが、「人として」という部分も学ばせていただきましたし、それは私にとってとても大きかったと思っています。ただ自分が監督になったときに、野村さんに教えてもらったことをそのまま選手達に話すことは、野村さんの受け売り、野村さんのコピーになってしまいます。それは逆に選手達に軽く思われてしまいます。ですので、そもそもミーティングも毎日はやりませんでしたし、選手達に何か伝えたいことがあったときも、できるだけ自分が学んできたこと、経験してきたことなどを「自分の言葉で伝えたい」と思っていました。
少し余談になりますが、私が監督に就任する際、野村さんには特に報告などはしていませんでした。それが原因という事もないと思いますが、野村さんはメディアを通じて「何であんなやつが監督をやっているんだ」というようなことを言っていました。野村さん流のキツいエールです(笑)。
私が監督になって初めてグラウンドでお会いしたのは、たしか野村さんが解説の仕事で来られていた東京ドームでの巨人戦前だったと思います。改めてご挨拶をさせて頂きました。野村さんは「おう」みたいな感じだったのですが、私は上記の発言の仕返しというわけではないですが、こんなことを言いました。
「監督は『固定観念を捨てろ』とよく仰っていましたけど、『外野手に名監督なし』ということも仰っていましたよね? でも外野手でも秋山(幸二)さんみたいに結果を出している監督もいますし、僕もそれに続けるように頑張ろうと思っています。監督も固定観念を捨てないとダメですよ」
そうしたら野村さんはちょっとニヤニヤされていましたね(笑)。
オープン戦の結果は6勝8敗の8位。秋季キャンプから選手達に言っていた「ベンチのサインに従ってくれ」ということを、試合を通じて伝え続けていました。それでもやっぱり「打て」の場面で進塁打を打つ選手はいました。そういうときは試合後にミーティングを開いて「あのケースだけど、引っ張って良いから。(追い込まれるまでは)右に打つ必要はないから」と何回か繰り返して言いました。それでやっと、選手達も「本当にそれで良いんだ」と浸透していった気がしました。
ただ、評論家の方にはどうしても「あの場面でなぜ——」と言われるんですよね。そうなると若い選手もやっぱり気にしてしまうものです。ですから開幕前に改めて「解説者の言うことは気にしなくていい。もし何か言われたら『監督に言われてそうやっていますから』って返すくらいの気持ちでやってくれ」そんなことを話しました。
コーチ全員で決めた開幕投手
開幕投手に指名したのは3年目の小川泰弘です。これはピッチングコーチを含めたコーチ陣みんなで話して決めました。打順でもそうですが、私は何かを決めるときは、担当外のコーチにもよく意見を求めました。
例えばピッチングコーチが「石川で行きましょう」と言ったとします。それに対して私は「野手のコーチ陣はどうですか? 開幕投手は誰で行って欲しいですか?」と違った角度からの意見を聞いてみる。それによって、野手陣はこういうふうにピッチャーのことを考えているんだなとか、色んなコーチ陣の考えが分かるからです。
このときは石川雅規か小川ということになって、石川もずっと頑張ってくれていましたけど、若い小川に任せようかなということで私が最終的に決めました。
そして3月27日、マツダスタジアムでの広島との開幕戦を迎えようとしていました。