チームを立て直した、新人監督たち

「監督就任に迷いはなかった」2年連続最下位から優勝…新人監督のチーム再建術とは? 元ヤクルト監督・真中満が明かす舞台裏

永松欣也

解説者の言うことは気にしなくていい

2015年のキャンプイン前日のミーティングの様子。真中監督(右)は「自分の言葉」を意識していた 【写真は共同】

 プロ野球選手にとって12月と1月はオフ期間となります。この間、監督、コーチが選手を指導することはできません。ですのでオフに入る前に、ピッチャーに対しては「2月1日にブルペンに入れる状態で来てくれ」、野手に対しても「1クール目から通常メニューで動ける状態で来てくれ」。そんなことを伝えていました。

 ヤクルトの春季キャンプと言えば、野村監督時代に行われていた夜のミーティング、座学のシーンを思い出される方も多いかもしれません。私自身も野球技術のことはもちろんですが、「人として」という部分も学ばせていただきましたし、それは私にとってとても大きかったと思っています。ただ自分が監督になったときに、野村さんに教えてもらったことをそのまま選手達に話すことは、野村さんの受け売り、野村さんのコピーになってしまいます。それは逆に選手達に軽く思われてしまいます。ですので、そもそもミーティングも毎日はやりませんでしたし、選手達に何か伝えたいことがあったときも、できるだけ自分が学んできたこと、経験してきたことなどを「自分の言葉で伝えたい」と思っていました。

 少し余談になりますが、私が監督に就任する際、野村さんには特に報告などはしていませんでした。それが原因という事もないと思いますが、野村さんはメディアを通じて「何であんなやつが監督をやっているんだ」というようなことを言っていました。野村さん流のキツいエールです(笑)。

 私が監督になって初めてグラウンドでお会いしたのは、たしか野村さんが解説の仕事で来られていた東京ドームでの巨人戦前だったと思います。改めてご挨拶をさせて頂きました。野村さんは「おう」みたいな感じだったのですが、私は上記の発言の仕返しというわけではないですが、こんなことを言いました。

「監督は『固定観念を捨てろ』とよく仰っていましたけど、『外野手に名監督なし』ということも仰っていましたよね? でも外野手でも秋山(幸二)さんみたいに結果を出している監督もいますし、僕もそれに続けるように頑張ろうと思っています。監督も固定観念を捨てないとダメですよ」

 そうしたら野村さんはちょっとニヤニヤされていましたね(笑)。

 オープン戦の結果は6勝8敗の8位。秋季キャンプから選手達に言っていた「ベンチのサインに従ってくれ」ということを、試合を通じて伝え続けていました。それでもやっぱり「打て」の場面で進塁打を打つ選手はいました。そういうときは試合後にミーティングを開いて「あのケースだけど、引っ張って良いから。(追い込まれるまでは)右に打つ必要はないから」と何回か繰り返して言いました。それでやっと、選手達も「本当にそれで良いんだ」と浸透していった気がしました。

 ただ、評論家の方にはどうしても「あの場面でなぜ——」と言われるんですよね。そうなると若い選手もやっぱり気にしてしまうものです。ですから開幕前に改めて「解説者の言うことは気にしなくていい。もし何か言われたら『監督に言われてそうやっていますから』って返すくらいの気持ちでやってくれ」そんなことを話しました。

コーチ全員で決めた開幕投手

2年連続の開幕投手を務めた2015年の小川は、11勝を挙げてリーグ優勝に貢献した 【写真は共同】

 開幕前はやっぱり期待よりも不安の方が大きかったですね。抑えのバーネットも前年は調子が悪かったですし、新しく獲ったオンドルセクも実際にシーズンが始まってみないとどう転ぶか分からない。前年にブレイクした山田が今年も同じように打ってくれるのかも分からないですし、バレンティンも開幕に間に合いそうもなかったですからね。

 開幕投手に指名したのは3年目の小川泰弘です。これはピッチングコーチを含めたコーチ陣みんなで話して決めました。打順でもそうですが、私は何かを決めるときは、担当外のコーチにもよく意見を求めました。

 例えばピッチングコーチが「石川で行きましょう」と言ったとします。それに対して私は「野手のコーチ陣はどうですか? 開幕投手は誰で行って欲しいですか?」と違った角度からの意見を聞いてみる。それによって、野手陣はこういうふうにピッチャーのことを考えているんだなとか、色んなコーチ陣の考えが分かるからです。

 このときは石川雅規か小川ということになって、石川もずっと頑張ってくれていましたけど、若い小川に任せようかなということで私が最終的に決めました。

 そして3月27日、マツダスタジアムでの広島との開幕戦を迎えようとしていました。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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