山口茜の静かなる戴冠 3度目世界一で示した“生き様”

平野貴也

世界選手権3度優勝は、日本勢初の快挙だ 【平野貴也】

 3度目の世界一は、今後の可能性を切り拓く自信となった。8月31日までパリで行われたバドミントンの世界選手権で、女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)が2大会ぶり3度目の優勝を飾った。同種目では、最多タイ。日本選手では初の快挙だ。山口は「今回は、優勝のチャンスはとても少なかったと思いますし、向かっていく立場。今年、結果が出ていない中での優勝というのが、また違う価値があるのかなと思います」と、過去2回の優勝との違いを表現した。今季のBWFワールドツアーでは、すべて準決勝敗退。大会前から挑戦者の立場を明確にしていたが、今季初の決勝に進み、3度目の世界一。まだトップに立つ力を持っていることを世界に証明した。

今季決勝に進めていなかった要因は、無意識の制限

 格上シードを破って、決勝へ進む。明確なテーマに対し、打開策として見出したのは、スピード強化だった。24年12月末の全日本総合選手権で右足ふくらはぎを負傷。復帰戦となった25年3月の全英オープンは、足に負担をかけないようにスピードを制限して戦った。丁寧なラリーの中で、相手に主導権を取らせないことに集中した戦い方でベスト4。悪くない手応えだった。しかし、世界選手権直前の日本代表合宿で、山口は次のように話した。

「その(全英オープンでの)動き方に慣れてしまったというか、前までは、そこでもう一歩、出力が出て、もうちょっと良い体勢とか、高い打点とかにできていた。しっかり動いているつもりだけど、相手選手にスピードとかで上回られて、ずっと後手に回っているなという感覚がある。でも、自分の中ではしっかり動いているつもりなので、なんでだろうなというところはあった」

ベースのスピード強化に効果、世界を圧倒

スピード感あふれるバドミントンを見せた山口 【平野貴也】

 もっとスピードを上げて動いてみよう。課題を明確にした山口は、7月の中国オープンから帰国後、活動拠点の熊本で男子学生を相手に練習。必然的にスピードが要求される中、先手を取ろうとスピードを上げると「一発行ったら、あっ、この感覚もあったなというところが出てきたのかなと」と思っていたよりも出力が上がり、無意識的にスピード制限をかけていたことに気付いたという。日本代表合宿でも男子選手とスピード感あるラリーを展開。スピードを上げ、なおかつ精度を落とさないプレーの準備に注力した。

 今大会では、しっかりと効果が出た。準々決勝は、2連敗を喫していた第4シードの韓悦(ハン・ユエ=中国)にストレートで勝利。準決勝では、勢いのある若手プトゥリ・クスマ・ワルダニ(インドネシア)の粘りを受けたが、第3ゲームで21-6と圧倒した。今季初の決勝は、相手の陳雨菲(チェン・ユーフェイ=中国)が準決勝で右足を負傷したため本来の動きには程遠かったという事情はあったが、丁寧なラリーからスピードを上げて相手を凌駕。2-0の完勝で世界の頂点に立った。山口は「スピードが、意図せずにベースとして平均的に出せている状態が今回。そこを考える分が省けて、より戦術だったり(相手を見て)前にいるから後ろに打とうみたいなことを実現できる余裕が生まれたのかなと思います」と手ごたえを語った。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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