週刊MLBレポート2025(毎週木曜日更新)

ドジャース、ムーキー・ベッツに独占インタビュー 「データよりも大切なもの」イチローと重なる野球観とは?

丹羽政善

データよりも先に学ぶことがある

ベッツがメジャーデビューした2014年、イチロー氏はヤンキースで活躍していた 【Photo by Hannah Foslien/Getty Images】

 その2人には共通点が少なくない。巧みなバットコントロール。右翼でイチローは10年連続ゴールドグラブ。ベッツも6度、ゴールドグラブを受賞している。体のサイズも、ベッツが身長178センチ、体重81キロに対し、イチローさんは、身長180センチ、体重79キロ。そのサイズゆえ、子供のころ、誰も彼らがプロになるとは予想しなかった。また、プロに入っても、成功を疑われた。

 イチローさんはこれまで、折に触れて「何度も悔しい思いをしてきた」と明かしている。

「小学生のころ、毎日野球を練習していると、近所の人から『あいつ、プロ野球選手にでもなるつもりか?』っていつも笑われていた」

 メジャーにデビューしたときも屈辱的な言葉を投げかけられた。

「最初のスプリングトレーニングで、マイク・ハンプトン(当時ロッキーズ)というピッチャーがいましたけど、あのピッチャーと対戦したときに、割と早い段階だったと思いますけど、『彼からヒットを打てると思いますか』っていう質問が飛んできたんですよね。まあ、あの質問は一生忘れないです」

 そんなエピソードをベッツに伝えると、彼も、「そんな話なら、自分にもいくらでもある」と苦笑した。「自分も子供の頃、体が小さいというだけで、チームに入れてもらえなかったし、無理だというレッテルを貼られた」。高卒でドラフトされると、「こんな体の小さな選手をレッドソックスはドラフトしたのか?」という声を耳にした。

「そんなの、『自分が決められることじゃないのに』と思ったよ」

 ただ、イチローさんが様々な侮辱をある意味糧とし、結果で黙らせてきたように、ベッツもそうした経験をモチベーションに変え、むしろいまは、「感謝している」と頬を緩めた。

「強がりじゃない。否定的な見方というのは、自分にとって『見返してやろう』というエネルギーになったから。捉え方だと思う。ネガティブな言葉に落ち込むよりは、それをどうプラスに変えられるか。いつも、そう考えてきた。だから、イチローがそういう声を利用したというのなら、そのことは同じ体が小さな選手として共感できるし、いま聞いて、『あぁ、そうだったのか』と思う」

 冒頭でデータについて触れたが、そこでも2人は同じような視点を持っていた。

 イチローさんはかつて、こんなことを言ったことがある。

「2アウト三塁で、僕なんかはよく使っているテクニックだけれど、速い球をショートの後ろに詰まらせて落とすという技術は確実に存在するわけ。でも今のMLBでは、チームによっては、そこで1点が入るよりも、その球を真芯で捉えてセンターライナーの方が評価が高い。ばかげている。ありえないよ、そんなこと。野球が頭を使わない競技になりつつあるのは、野球界としては憂えるべきポイントだね。野球ってばかじゃできないスポーツだから。でも、ばかみたいに見えるときがあるもんね。ほんとに」

 ベッツはそれを聞きながら、「その技術はかなり高度だから、出来る選手は限られるかな」と苦笑したが、「いまの若い選手だったり、高校生、大学生は、データを先に学ぶ。それは悪いことではない。頭を使わないと理解できない」と言いつつも、こう続けた。

「でも、ファンダメンタルを学んでからでも遅くはない。まずは、そこを学んでから、データを学べばいい」

 ベッツは、イチローさんの基本に忠実なプレーを覚えていた。

「彼はやはり、野球のファンダメンタルを大切にしていた、という印象がある。カットマンに返すのもそうだけど、ダイレクトで投げるにしても、カットマンが捕るかもしれない、という高さで投げる。それだけで走者を止められるし、走塁なんかでも、抜け目がないというか。とにかく、敵のチームにいたら厄介だな、という印象かな。長打がない、という人もいると思うけど、四球でも塁に出せば、盗塁や、ちょっとした隙をついて次の塁を狙ってくるから、内野手やバッテリーは気が抜けないよ」

 そうしたファンダメンタルをベッツは家の“基礎”に例えた。

「野球のファンダメンタルを大切にすることは、家づくりに似ている。基礎がしっかりしていなければ、いくら立派な家具を揃えても、見栄えのいい外観にしたとしても、嵐でその家はつぶれてしまう。だから、自分の子供が野球をやりたいと言ったら、まずは、徹底的に基礎を学ばせると思う。そこがしっかりしていれば、簡単には崩れない。家を建てるなら、基礎をまず重視すること。その上で、大きなテレビを買うなり、高価なソファーを買えばいい。言っていること、分かるかな? データはそれからでいい。まずは、基礎なんだ」

 データよりも先に学ぶことがある。ベッツとイチローさんは同じ言葉を話している――そう感じられた。

目の前の壁は自分が成長できるチャンス

これまで幾多の壁を乗り越えてきたベッツ。地区優勝争いに向け調子を上げてきた 【Photo by Katelyn Mulcahy/Getty Images】

 ところでベッツは、ようやく一時期のスランプを脱したようだ。

 7月30日から8月4日までの5試合は、20打数無安打。シーズンの打率は.231まで下がった。しかし、8月5日から25日までの18試合は、打率.356、出塁率.415、長打率.507、OPS.921。その間、三振はわずか4つ。いよいよ彼らしくなってきた。

 かつてイチローさんは、「壁というのは、乗り越えられる人にしかやってこない」と話し、むしろそれをポジティブにとらえていたが、ベッツはスランプにどう向き合っていたのか。

 その問いに彼は、「何か自分に乗り越えなければいけない壁が訪れたとき、できるだけ柔軟に、広い視野で物事をとらえ、そのチャレンジを受け入れるようにしている」と話し、こう言葉を継いでいる。

「そこから何かを学ぼうとする。成功したのか失敗したのか、やり方が正しかったのか間違っていたのか、そう考えるのは好きじゃない。何か決断をしたら、それを信用して、結果は望む形にならないかもしれないけど、でもそれは次に困難が訪れたときに活かすことができる。それを覚えていれば、前回はこうだったから、こういう結果になったということが言える」

――つまり、経験を重ねるしかない?

「その通りだ。我々は経験から学ぶんだ。それがすべて。もしもどうやって打つの? と聞かれたら、それを教えることはできる。それだけで十分なら簡単な話だ。『こうやって構えて、こうやって振るんだ』って。でも打席に立つとそういうわけにはいかない。相手の球がどう見えるのか、それがわからなければ対処のしようがないからね」

 もがいているときは苦しい。しかし、同時に経験値を上げる原動力ともなる。

 打てないとき、その要因はケース・バイ・ケース。過去の教訓が必ずしも活きるわけではない。でも、それが新たな挑戦であればあるほど、引き出しは増える――ベッツはそう考え、イチローさん同様、目の前に壁が現れるたび、逆にチャンスととらえているようだった。

 なお、この独占インタビューの一部は、9月3日(水)にABEMAで「ドジャース対パイレーツ」の中継があるが、試合前に放送される予定である。

(企画構成:スリーライト)

※次回は9月11日(木)の掲載になります。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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