ドジャース、ムーキー・ベッツに独占インタビュー 「データよりも大切なもの」イチローと重なる野球観とは?
データよりも先に学ぶことがある
イチローさんはこれまで、折に触れて「何度も悔しい思いをしてきた」と明かしている。
「小学生のころ、毎日野球を練習していると、近所の人から『あいつ、プロ野球選手にでもなるつもりか?』っていつも笑われていた」
メジャーにデビューしたときも屈辱的な言葉を投げかけられた。
「最初のスプリングトレーニングで、マイク・ハンプトン(当時ロッキーズ)というピッチャーがいましたけど、あのピッチャーと対戦したときに、割と早い段階だったと思いますけど、『彼からヒットを打てると思いますか』っていう質問が飛んできたんですよね。まあ、あの質問は一生忘れないです」
そんなエピソードをベッツに伝えると、彼も、「そんな話なら、自分にもいくらでもある」と苦笑した。「自分も子供の頃、体が小さいというだけで、チームに入れてもらえなかったし、無理だというレッテルを貼られた」。高卒でドラフトされると、「こんな体の小さな選手をレッドソックスはドラフトしたのか?」という声を耳にした。
「そんなの、『自分が決められることじゃないのに』と思ったよ」
ただ、イチローさんが様々な侮辱をある意味糧とし、結果で黙らせてきたように、ベッツもそうした経験をモチベーションに変え、むしろいまは、「感謝している」と頬を緩めた。
「強がりじゃない。否定的な見方というのは、自分にとって『見返してやろう』というエネルギーになったから。捉え方だと思う。ネガティブな言葉に落ち込むよりは、それをどうプラスに変えられるか。いつも、そう考えてきた。だから、イチローがそういう声を利用したというのなら、そのことは同じ体が小さな選手として共感できるし、いま聞いて、『あぁ、そうだったのか』と思う」
冒頭でデータについて触れたが、そこでも2人は同じような視点を持っていた。
イチローさんはかつて、こんなことを言ったことがある。
「2アウト三塁で、僕なんかはよく使っているテクニックだけれど、速い球をショートの後ろに詰まらせて落とすという技術は確実に存在するわけ。でも今のMLBでは、チームによっては、そこで1点が入るよりも、その球を真芯で捉えてセンターライナーの方が評価が高い。ばかげている。ありえないよ、そんなこと。野球が頭を使わない競技になりつつあるのは、野球界としては憂えるべきポイントだね。野球ってばかじゃできないスポーツだから。でも、ばかみたいに見えるときがあるもんね。ほんとに」
ベッツはそれを聞きながら、「その技術はかなり高度だから、出来る選手は限られるかな」と苦笑したが、「いまの若い選手だったり、高校生、大学生は、データを先に学ぶ。それは悪いことではない。頭を使わないと理解できない」と言いつつも、こう続けた。
「でも、ファンダメンタルを学んでからでも遅くはない。まずは、そこを学んでから、データを学べばいい」
ベッツは、イチローさんの基本に忠実なプレーを覚えていた。
「彼はやはり、野球のファンダメンタルを大切にしていた、という印象がある。カットマンに返すのもそうだけど、ダイレクトで投げるにしても、カットマンが捕るかもしれない、という高さで投げる。それだけで走者を止められるし、走塁なんかでも、抜け目がないというか。とにかく、敵のチームにいたら厄介だな、という印象かな。長打がない、という人もいると思うけど、四球でも塁に出せば、盗塁や、ちょっとした隙をついて次の塁を狙ってくるから、内野手やバッテリーは気が抜けないよ」
そうしたファンダメンタルをベッツは家の“基礎”に例えた。
「野球のファンダメンタルを大切にすることは、家づくりに似ている。基礎がしっかりしていなければ、いくら立派な家具を揃えても、見栄えのいい外観にしたとしても、嵐でその家はつぶれてしまう。だから、自分の子供が野球をやりたいと言ったら、まずは、徹底的に基礎を学ばせると思う。そこがしっかりしていれば、簡単には崩れない。家を建てるなら、基礎をまず重視すること。その上で、大きなテレビを買うなり、高価なソファーを買えばいい。言っていること、分かるかな? データはそれからでいい。まずは、基礎なんだ」
データよりも先に学ぶことがある。ベッツとイチローさんは同じ言葉を話している――そう感じられた。
目の前の壁は自分が成長できるチャンス
7月30日から8月4日までの5試合は、20打数無安打。シーズンの打率は.231まで下がった。しかし、8月5日から25日までの18試合は、打率.356、出塁率.415、長打率.507、OPS.921。その間、三振はわずか4つ。いよいよ彼らしくなってきた。
かつてイチローさんは、「壁というのは、乗り越えられる人にしかやってこない」と話し、むしろそれをポジティブにとらえていたが、ベッツはスランプにどう向き合っていたのか。
その問いに彼は、「何か自分に乗り越えなければいけない壁が訪れたとき、できるだけ柔軟に、広い視野で物事をとらえ、そのチャレンジを受け入れるようにしている」と話し、こう言葉を継いでいる。
「そこから何かを学ぼうとする。成功したのか失敗したのか、やり方が正しかったのか間違っていたのか、そう考えるのは好きじゃない。何か決断をしたら、それを信用して、結果は望む形にならないかもしれないけど、でもそれは次に困難が訪れたときに活かすことができる。それを覚えていれば、前回はこうだったから、こういう結果になったということが言える」
――つまり、経験を重ねるしかない?
「その通りだ。我々は経験から学ぶんだ。それがすべて。もしもどうやって打つの? と聞かれたら、それを教えることはできる。それだけで十分なら簡単な話だ。『こうやって構えて、こうやって振るんだ』って。でも打席に立つとそういうわけにはいかない。相手の球がどう見えるのか、それがわからなければ対処のしようがないからね」
もがいているときは苦しい。しかし、同時に経験値を上げる原動力ともなる。
打てないとき、その要因はケース・バイ・ケース。過去の教訓が必ずしも活きるわけではない。でも、それが新たな挑戦であればあるほど、引き出しは増える――ベッツはそう考え、イチローさん同様、目の前に壁が現れるたび、逆にチャンスととらえているようだった。
なお、この独占インタビューの一部は、9月3日(水)にABEMAで「ドジャース対パイレーツ」の中継があるが、試合前に放送される予定である。
(企画構成:スリーライト)
※次回は9月11日(木)の掲載になります。