スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「まさか数年後に…」ドラ9捕手が侍ジャパンに選出 元DeNAスカウトが明かすドラフト秘話

永松欣也

肩の強さを買って指名した山本祐大だったが、吉田氏はドラフト指名時にそこまで期待は寄せていなかったという 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 2020年までDeNAのスカウトを務めていた吉田孝司氏に選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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戦略がズバリはまった東の一本釣り

 ラミレス監督の2年目となる2017年は3位。2年連続のAクラスで2001年以来の勝率5割超えとなりました。クライマックスステージを勝ち上がり、19年ぶりに日本シリーズに出場。戦力が充実し、低迷期を脱して優勝争いができるチームになっていた時期でした。宮﨑が五番に定着して首位打者を獲ったのもこの年でしたね。

 この年のドラフト最大の目玉は早稲田実業の主砲・清宮幸太郎(日本ハム1位)で7球団が競合しました。それでもうちが欲しかったのはやっぱり即戦力の先発でしたから、競合に加わる考えはありませんでした。清宮クラスのスター選手が出てくると、「清宮で行け!」とか球団側から言われそうなものですけど、ベイスターズではそういうことは全くなかったですね。そこは変わらず私が決めさせてもらっていました。

 即戦力の先発ピッチャーは立命館大の東克樹とJR東日本の田嶋大樹(オリックス1位)の両左腕がいて、実力は甲乙つけがたく、どちらで行こうか私も悩みました。

 東は170センチと小さい反面、田嶋は182センチの身長があって手足が長くて実にピッチャーらしい体型をしている。私は将来性では田嶋かなと考えていました。積んでいるエンジンは大きい方がいいと思ったんですね。ただ田嶋は先にオリックスが指名を宣言したため、田嶋で行けば抽選になることがほぼ確定になりました。田嶋を外しても東が残っている可能性もありますけど、そのときは外れで東も抽選になるでしょう。高田さんとも「だったら東を一本釣りで行こうか?」と話して、それで東に決まったんです。担当スカウトの話などを総合すると、東を1位で来るところはなさそうでしたしね。

 それまでは抽選を避けずに一番評価した選手を選んでいましたが、この年は柔軟に対応しました。

 田嶋もオリックスで期待通りの活躍をしていますが、東の方は期待以上の活躍をしてくれています。1年目から二桁勝って新人王を獲って、途中でトミージョン手術もありましたけどその後は復活して最多勝も獲って、今やベイスターズの大黒柱です。コントロールが良かったですから直ぐに使えるだろうとは思っていましたけど、まさかここまで勝てるピッチャーになると思わなかったです。投げ方もボールの質も今永と似ていたので、今永くらいのピッチャーになってくれたらとは思っていましたけどね。

 結果論になってしまいますけど、この年の1位は東、田嶋以外にも何人か大学、社会人のピッチャーが指名されていますが、活躍したのはこの二人だけ。もし田嶋に行って外して、外れで東も外していたら大変なことになっていたかもしれません。そういう意味でも東を単独で行った判断は間違っていなかったですね。

 2位は日本生命の外野手・神里和毅を指名しました。2012年に外れ1位で白崎を獲ってから、それ以降はずっと1、2位は即戦力のピッチャーを指名していましたから、そろそろ野手の即戦力も欲しい時期ではありました。バッティングが良くて守りも良い、三拍子揃った選手で、外野は筒香、桑原、梶谷といましたけど、そこと争える、将来的には梶谷の後釜という位置づけですね。この順位で獲るのも最初から予定通りでした。

 3位では北海のピッチャー・阪口皓亮(現ヤクルト)、5位で日大三の左腕・櫻井周斗を獲るなど、前年に続いて高校生を獲りました。これまでずっと即戦力中心で指名してきて、メンバーも揃ってきていましたから、長期的な視野に立ってチームを強くするためには高校生も徐々に指名していきたいという、そういう段階でしたね。

後の侍戦士はドラフト9位

のちに侍ジャパンにも招集されることになる山本祐大(左)はなんとドラフトで9位指名だった 【写真は共同】

 この年の下位では8位で東北福祉大の外野手・楠本泰史(現阪神)、9位でBCリーグ・滋賀のキャッチャー・山本祐大を獲っています。担当スカウトから報告があって私も観に行って、もうこの2人は私の中では下位で獲ることを決めました。だから担当スカウトには「指名するから」とはっきりは伝えませんでしたけど「もうあんまり行くなよ」と言いました。頻繁に行っていると他球団にバレてしまいますから。もう指名する気がないようにしてもらっていたんです。

 楠本の魅力はミート力。試合後のバッティング練習を見ていたらほとんど芯で捉える。どの球団も来ていないと言うし、それで下位で獲ろうと思ったんです。一時はもう少しでレギュラーが獲れるところまでは行ったんですけどね、昨年で戦力外になって今年から阪神に移籍しました。

 9位の山本は肩が良かった。前にも言いましたけど、キャッチャーは活躍できなくてもチームの手伝いとかも出来ますから、何人いても困りません。そんな感じで獲った選手でしたけど、まさか数年後に正捕手になって侍ジャパンのメンバーになるなんて想像できなかったですね。

 最初の方はバッティングがもう全然ダメ。それを自分の弱点だと自覚して、色々と考えながら練習をして努力したんでしょうね。初めは東の専属捕手みたいな使われ方でしたけど、そこからバッティングが良くなって正捕手の座を掴みました。担当スカウトは小林晋哉。スカウト冥利に尽きるでしょうね。

 育成で獲った箕島の中川虎大も一軍で戦力になってくれました。担当スカウトは私がベイスターズの1年目に獲ったピッチャーの安部建輝。右肘を壊して4年で引退して、この年からスカウトをしていました。

「えいやー!」という感じの活きの良いボールを投げるピッチャーで、将来性を評価しました。とはいえ支配下だとちょっと厳しい。それで育成で良いんだったら、ということで指名しました。2年目には支配下になって、その後もちょこちょこ一軍で投げて、7年目の去年は31試合に登板。今年も結構投げていますね。

 この年の指名を振り返ると、やっぱり東と山本ですよね。1位と9位で侍ジャパンが2人ですねから。神里と楠本も一軍戦力になりましたし、育成の中川も時間はかかりましたけど今一軍で頑張っています。狙っていた選手は全部獲れたドラフトでしたね。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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