東京夏季大会Vの三浦佳生、“戦略的な休養”で怪我から回復中「自分の芯を持ってシーズンを迎えたい」

沢田聡子

「この方法で間違っていない」マイペースで次戦へ

独自の編曲が印象的なフリー『オペラ座の怪人』 【写真:麻生えり】

 翌日のフリー、赤の装飾がついた白と黒のグラデーションの衣装で登場した三浦は、『オペラ座の怪人』(ブノワ・リショー氏振付)を滑り始めた。王道の曲ではあるが、一般的にプログラムには使われてこなかった旋律も含まれており、オリジナリティのある編曲という印象だ。

 冒頭で挑んだ4回転ループは両足気味の着氷で、回転不足と判定される。しかし4回転サルコウ、続いて跳んだトリプルアクセルは加点がつく出来栄えで成功。トリプルアクセルからの3連続ジャンプは、3回転を予定していたと思われる最後のサルコウが2回転になった。

 演技後「(ジャンプ)4本目が終わってスピンをやって、あの時点で大分もうスタミナはなかった」と三浦自身が振り返っているように、5つ目からのジャンプは苦戦した。トウループ、フリップと続けて2回転になり、最後のジャンプとなる3ループ-ダブルアクセルでは転倒。前半では復調、後半では現時点での体力の限界を印象づける出来栄えだった。ただ、ドラマティックな曲調と三浦の迫力あるスケーティングがマッチするこのフリーは、五輪シーズンにふさわしい名プログラムになる予感がする。

「やっぱりフリーは予想通り、4分間通してできるぐらいの体力がないというか。スタミナというより、足が追いついてくれていない状況なので、まだまだ引き続き練習の強度を上げて頑張っていきたい。その中でもサマーカップよりはジャンプが入ってくるようになってきたので、そこは良かったかなと思います」

「サマーカップと比較して、短い期間ではありましたけど、トレーニングの成果が出せているなというのは確認できた。続けていって『この方法で間違っていないかな』という収穫はありました」

 フリー143.58、合計217.60で優勝した三浦は、インタビュールームでこのように総括した。ジャンプの手応えについても、「かなり良かったなと思いますね」と口にしており、着実に復調している実感があるようだった。2週間後に迫ったチャレンジャーシリーズ・木下グループ杯(9月5~7日、大阪府泉佐野市)への調整については、強度を上げながらケアの量も増やすと語った。

「やっぱりハードな練習をするとその分リスクも高くなってくると思うので、ここからは気を引き締めて頑張っていきたいと思います」

 怪我の悪化を防ぎながら追い込んでいくため、三浦は「戦略的な休養」として、今までは設定していなかった休養日を設けた。休養日は基本週1日だが、疲労から怪我した部位を使ってしまうことを防ぐため、疲れを感じた時は朝の練習ではジャンプを跳ばず、夜の練習は休むというやり方もする。休養日は、映画や野球を観たり、ゲームをしたりして過ごしていると語った。

「あえて休んで、ウズウズしないんですか?」と記者に聞かれると、三浦は「やっぱり周りがこの期間も練習していると思うと、焦りたくなる気持ちももちろんあるんですけど」と言い、言葉を継いだ。

「ただ自分の今の状況を踏まえたら、やっぱり休養を挟んで、できる日に効率よく練習した方が伸びると思うので。そこは崩さずやっていきたいですし、あまり周りを気にせずやっていきたい。自分のペースを守って、周りに左右されず、自分の芯を持ってシーズンを迎えたいなと思っています」

 スピード感あふれるスケーティングで爆走してきた三浦が、時には立ち止まる賢さを身につけたということだろう。我が道を行く“ランボルギーニ・ミウラ”が、五輪への助走に入った。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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