連載:世界バレー2025・特別企画「各ポジションの流儀」

荒木絵里香が明かすミドルブロッカーの神髄  数字に残らない「献身」の重要性

田中夕子

今年のネーションズリーグ、ブロックを狙う宮部藍梨(右) 【写真は共同】

 08年北京から21年東京まで、4大会連続の五輪出場。そのうち代表の主将を2度務めたのが、日本が誇るミドルブロッカー、荒木絵里香だ。子どもの頃からの恵まれた体格と身体能力を武器に世界の第一線で活躍し、18年の現役生活を全うした。引退後は大学院で新たな視野からバレーボールを学び、現在はクインシーズ刈谷のチームスタッフや解説者としても活躍している。

 荒木によると、ミドルブロッカーとは、数字や結果では見えづらい「献身」だと言う。戦術やルールも変遷し、「男子化が進んできた」女子バレーの世界で、ミドルブロッカーが果たす役割とは何か。そして世界選手権に挑む後輩たちに何を期待するのか。荒木に話を聞いた。

記録には残らないミドルブロッカーの「献身性」

ロンドン・東京五輪では主将を務めた荒木。「ママアスリート」としての活躍にも注目が集まった 【写真は共同】

荒木 「ミドルブロッカーはどんなポジションか?」と聞かれると、ひと言で表すのがとても難しいです。機動力や献身性といったさまざまな要素はありますが、攻撃にしても守備にしても「周りを活かし、自分も活かす役割」だと捉えています。

 具体的には、ポジション名に「ブロッカー」という言葉が入っている通り、ミドルブロッカーの最も重要な仕事はブロックです。ブロックは相手からボールが向かってくるときの「最初の守備」であり、同時に得点を取るための「攻撃」と捉えることもできます。ブロックの際には、事前のデータと目の前の状況を瞬時に整理していました。相手に得点させず、自分たちのチャンスにつなげるためには、「どこへ」「どうやって」跳ぶのが最も効果的か?考えながらプレーしています。

 また、ミドルブロッカーの役割はそれだけではなく、クイックを中心としたアタック攻撃にも積極的に参加します。自分が攻撃に参加することで相手ブロックを引きつけ、味方のアタッカーを楽にさせる役割も担うんですよ。記録に残らないところで、いかにチームのために仕事ができるか。現役生活を振り返れば、そういうところをずっと追求し続けてきました。

 私がバレーボールを始めたのは小学5年のことです。当時からずば抜けて身長が高かった私は、引退するまでずっとミドルブロッカーの一択でした。ブロックの動きの1つ1つはもちろんのこと、ブロックのあとにすぐに助走に入って攻撃に参加するという意味では、他のポジションとはまた違う動きが求められるので、学生時代はレベルが上がれば上がるほど何をしていいかわからなかった。ネットから3mほどの距離をグルグル回っていただけの時期もありました(笑)。

追いかけたミドルブロッカー像とチームのあり方

荒木とアウトサイドヒッターの元日本代表・木村沙織(右)。チームメイトとの連携を大事にしてきた 【写真は共同】

荒木 私は18歳でVリーグの世界に飛び込んで、21年の東京五輪後に現役を引退しました。いつまでたっても決して器用な選手ではありませんでしたが、キャリアの終盤にはブロック賞を何度も獲ることができました。身体の動きやキレ、ジャンプ力だけを見れば若い頃のほうが圧倒的に勝っていたにも関わらず、終盤で結果を残すことができたのは、すべて「経験」の賜物です。

 「何がいいブロックか」「どんなブロックが上手とされるのか」簡単なようで実は答えは難しい。繰り広げられるコンマ数秒の世界で、どれだけ手が出せるのか。近年は、ブロックを単独で考えるのではなく、いかにレシーバーと連動してディフェンスできるかという「トータルディフェンスの構築」も重要になってきています。サーブ、ブロック、ディグまでの一連の精度を高めて、自分たちのオフェンスの機会を創出することは、何よりも重要なことです。ブロックを練習から常に全力でこだわって取り組むことで、自分が抑えられる範囲や抜けるボールの傾向を自チームのディガーにも理解してもらえます。

 普段から1本1本全力で移動して、行けるところまで行ってから全力でブロックに跳ぶ。それがコミュニケーションでもあると思っていたので、「私はここまで行けるよ」と後ろにいるレシーバーに対してプレーで伝えてきたつもりです。どんな状況でも連携を高めてプレーするために、練習が全てだと考えています。(木村)沙織とのブロックディグの関係性は、長年やってきたことで構築できました。試合の中で抜けたボールにアジャストしてくれることや上手くハマっていくのは、楽しかったです。

 ミドルブロッカーの仕事は、1本1本すべてが数字や結果で示されるわけではありません。玄人好みなポジションではありますが、どれだけ強いインパクトを与えることができるか。「この人が前衛に来ると嫌だな」「何かしてくるだろうな」相手にそう言わせることが、ミドルブロッカーにとって最高の誉め言葉かもしれません。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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