去り行く北京五輪世代の矜持と未来

未来の指揮官・興梠慎三が分析するミシャレッズと鹿島の違い【去り行く北京五輪世代の矜持と未来(15)】

吉田治良

歴代2位となるJ1通算168得点を記録した名ストライカーは現在、浦和で「パートナー営業担当およびアカデミーコーチ」の役職に就いている 【YOJI-GEN】

近寄りがたいオーラ、柔らかな笑み

 浦和レッズの練習施設、大原サッカー場の入り口で守衛の男性に訪問の目的を告げていると、視界の端に人影がよぎる。無意識に目で追えば、まるでたった今、試合を終えたばかりのような少しけだるい雰囲気をまとった背中が、ゆっくりとクラブハウスに吸い込まれていく。

 数分後、クラブハウス内の一室に姿を現したその人物、興梠慎三は現役時代を想起させる先ほどまでの近寄りがたいオーラを、見事なまでに消していた。

 ほんの半年前まで浦和のストライカーとして鳴らした彼は今、11シーズンを過ごした愛着あるそのクラブで「パートナー営業担当およびアカデミーコーチ」という役職に就いている。こちらの緊張を一瞬で解いてしまうような柔らかな笑顔を見て、興梠のかつてのチームメイトであり、良き友である森脇良太の言葉が思い浮かぶ。

「男気に溢れていて、豪快だけど心根が優しいんです。営業は、そんなシンゾーにもってこいの仕事ですよ。大好きなお酒を飲みながらスポンサーの人と会食をして……めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか(笑)」

 それでも、「営業」という言葉が興梠とイコールで結びつけにくいのは、現役時代のプレースタイルが、どこか飄々としていて、捉えどころがなかったからかもしれない。

 同じく浦和時代のチームメイトで、こちらも2024年シーズンを最後に引退した梅崎司は、興梠を「天才」と評する1人だ。

「僕は大好きなんですよ、慎三のプレーが。ちょっと毛色が違うというか、本物の天才だったと思います。すごく頭がいいけど適当なところもあって、ゴールに飢えていないようで飢えている。彼みたいなストライカーって、もう出てこないんじゃないかな」

 現在、興梠は協賛パートナーへの挨拶回りや会食に加えて、様々なイベントにも積極的に顔を出している。スポンサー獲得のための名刺交換会に参加したり、パートナー企業のイベントでサポーターの引越しを手伝ったりと、多忙な日々が続く。

まだ名前が残っているうちに

浦和加入を機に本格的なストライカーへと変貌。「浦和のサポーターが自分にゴールを期待してくれたから、僕は変われた」と感謝する 【(C)J.LEAGUE】

「営業の仕事は性に合っていますか?」。その笑顔に便乗して、真っすぐに聞いてみる。

「苦ではないですよ(笑)。僕は小さい頃からずっとサッカーしかしてこなかったので、パートナーの方々とお話をして学ぶこともたくさんありますし、自分自身の成長につながっていると感じています。パートナーのみなさんは本当に浦和レッズを愛し、浦和レッズを強くしたいという想いで協賛してくれています。僕は営業のプロフェッショナルではありませんが、そうしたみなさんが抱えている不安とか要望に対して、現場から伝えられることは少なくないんです」

 京都サンガF.C.の梅崎、サンフレッチェ広島の青山敏弘と、同じタイミングで引退し、そのままJ1クラブのトップチームコーチに就任した北京五輪世代もいる。興梠の実績を考えれば、同じ道を選択することも可能だったはずだ。現在はアカデミーコーチも兼任し、週に3回、小中学生を指導しているというが、なぜあえて“二足の草鞋”を履いたのか。その答えは単純明快だった。

「正直、本格的なコーチ業は5年後でも6年後でもやれるのかなって。引退したばかりのこの1年というのは、パートナー企業の方々にとって、僕の名前はすごく使いやすいと思うんですね。これから先、また新たに引退する選手が出てくるなかで、まだ名前が残っているこの1年にしかできないことがある。今はピッチで選手に何かを伝えるよりは、違った角度からチームのために貢献しようと、そう判断したんです」

 それでも、「来年からは指導者一本で行きたい」と考えている。カテゴリーを大きく下げるつもりはなく、まず目指すのはユースチームのコーチだ。引退会見では「いつか浦和レッズの監督になって、自分が獲れなかったJリーグのタイトルを獲りに行く」と野心も口にしている。

 ただ、盟友の森脇が「意外だった」と話したように、当初は「監督になりたい」と引退後の目標を口にすると、驚かれることが多かったという。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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