バレー元日本代表・山本隆弘が語る勝利の“駆け引き” オポジットの責任と瞬時の判断力
どんな状況でも、上がってきたトスは決める。それが、オポジットに求められる役割だ。バックアタックや、勝負がかかった場面で巡ってくるサーブ、目の前に相手のブロックが立ちはだかった状態での攻撃。瞬時の判断を問われる、頭脳的なポジションでもある。
時代とともにバレーボールの戦術も変化する中、オポジットに求められ、課せられた役割とは何か。世界選手権に向けた期待とともに、山本に話を聞いた。
攻撃専門のオポジットは「チームの火を絶やさない存在」
サーブレシーブをしてから攻撃に入るアウトサイドヒッターとは異なり、オポジットは「攻撃専門」とも言われています。具体的には、試合展開の苦しい時や崩れた時にもトスが上がってくるんですよ。言うならば、常にチームの火を絶やしてはいけない存在。相手のブロックに視界を塞がれて、まるで暗闇に向けて攻撃をしなければならない状況でも、点を決めなければいけないんですよね。
「勝ったのは山本のおかげ」と言われることはなかったですが、「負ければ山本のせい」と言われることも多かったですよ。現役時代を振り返ると、楽しかったことはなかなか思い出せない。それぐらい、勝敗の責任は自分に向けられていると思いながらプレーしてきました。
今でも忘れられないのは、アルゼンチンで開催された2002年の世界選手権ですね。残念ながら日本の2次ラウンド敗退が決まり、もう先はないことがわかっていた中で、最終戦のブルガリア戦を迎えました。セットカウント1対2でブルガリアにリードされた状況で、同じ年に日本代表へ初選出されたセッターの山口誠さん(現・清風高監督)が投入されたんです。山口さんが緊張しているのが見ていてわかったし、スーパーエースとして助けてあげたいと感じていました。
そんなときに、山口さんが僕に「隆弘。俺不安やし、お前にしか上げられへんから頼む」と耳打ちしたんですよ。僕も「オッケー。俺に全部トス上げていいから」と即答しました。実際に試合中、山口さんはすべてのトスを僕に託したんです。もしも今だったら、こういうやりとりと判断をした僕たちは、2人とも指導者から叱責されるかもしれないですよね。結果的にはフルセットで逆転勝ちして、ホッとしましたよ。当時のリベロの津曲勝利さん(現・サントリー大阪チームディレクター)が「隆弘も真のエースになったな」と声をかけてくれたのも、嬉しかったですね。
心のどこかでは、自分一人が打って決める状況をつくってしまったことに迷いもありました。スタンドプレーをしている自分が正解なのか、苦しさもあった。でもその気持ちを払拭してくれたのが、津曲さんの一言だったんです。長い現役生活を振り返るたび思い出す、忘れられない試合ですね。
海外と日本のオポジットたちの「クレバーさ」
日本の選手で言えば、パリ五輪代表の西田有志選手や宮浦健人選手。08年北京・20年東京と2大会に出場し、パナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)では僕とも一緒に長年プレーした清水邦広選手。彼らは世界に比べれば小柄なオポジットですが、それぞれの武器を持って世界と渡り合ってきました。
現役選手である西田選手や宮浦選手と一緒にプレーしたことはありませんが、見ていて2人に共通しているのは、非常に判断能力に長けているということですね。西田選手は速いトスも打てるし、ハイボール(2段トス)も打てる。また、攻撃力の高さに加えて、クレバーさもあるんですよ。大事な場面で確実に点を取り切るために、試合の序盤や中盤はあえて違うコースを狙い、本来得意なコースに対するマークを手薄にする布石を打つんですね。相手が「クロスしかない」とブロックが中に寄ったところで満を持してストレートに決めるのは、彼の「考える力」が発揮されている証拠ですね。
宮浦選手は速いトスより高いトスを打ち切るのが得意ですが、空中で相手のブロックやレシーバーを見て、どこに打てば効果的かを常に考えて打てている印象です。二手、三手先まで考えているので、苦しい場面でも心強い存在ですよね。23年のネーションズリーグでは、途中出場ながらチームを勝利に導く活躍ぶりを見せました。リザーブであっても万全の準備をして、状況に応じた仕事ができるのは宮浦選手の強みだと感じています。