ハミルトン「僕は役立たずだ」 苦闘のフェラーリ移籍。復活の可能性を探る――

柴田久仁夫

予選直後のハミルトンは、沈んだ表情を隠そうともしなかった 【(c)ScuderiaFerrari】

衝撃の自虐発言

「いつもいつも、悪いのは僕だ。ただの役立たずでしかない」

 先週末開催されたF1ハンガリーGP予選で、思わず耳を疑うような無線が流れた。発言の主は、ルイス・ハミルトン。予選Q2で12番手に終わり、Q3進出の望みが絶たれた直後だった。F1史上最多の103勝を誇り、7度の世界王者に輝いた男が、自らを”absolutely useless(ただの役立たず)”と切り捨てたのだ。

 ハミルトンは今季メルセデスからフェラーリに移籍し、前人未到の「8冠」達成という最後の大勝負に出た。しかしここまでの成績は振るわない。

 14戦を終えて、二度の4位が最高位。一方チームメイトのシャルル・ルクレールは、優勝こそないものの、2位1回、3位3回と計4回の表彰台。さらに歴然と差をつけられているのが予選順位で、ルクレールを上回る速さを見せたのは、14戦中4回しかない。

 12番グリッドからスタートした今回のレースも、1周目に2台に抜かれるなどいいところなく12位完走。レース後の取材では、「チームに問題はない。僕の運転が酷かった。フェラーリはドライバーを替えるべきかもしれない」と、自虐コメントは止まらなかった。

 なぜ、ハミルトンはここまで苦しんでいるのか。復活の目は、あるのだろうか。

なぜ復調できないのか

エミリアロマーニャとイギリスGPでの4位入賞が、フェラーリ移籍後のハミルトンの最高位だ 【(c)ScuderiaFerrari】

 低迷の原因はいくつもある。まずはマシン自体の戦闘力の低さだ。今季はマクラーレンが圧倒的な強さを誇り、フェラーリは苦しい戦いを強いられている。それでもルクレールはコンスタントに表彰台に上がっているのに対し、ハミルトンは結果を出せずにいる。

 そこに関わってくるのが、フェラーリの特殊性だ。F1の代名詞ともいうべきチームであり、常に勝利を求められる。今季1勝もできずにいるフレデリック・バスール代表には、イタリアのメディアや熱狂的なファンたちから更迭の声が巻き起こった。

 ドライバーにしても、ただ速いだけでは成功できない。セバスチアン・ベッテルはタイトルを争うほどの活躍を見せながらも、育成ドライバーだったルクレールの優遇によって、微妙な立場に追い込まれ、チームを去った。フェルナンド・アロンソはフェラーリ独特の政治的駆け引きに苦しみ、当時のチーム代表との関係悪化が退団に直結した。

 対照的にミハエル・シューマッハはジャン・トッド、ロス・ブラウンの全面サポートを受け、「シューマッハ軍団」を作り上げることでフェラーリ黄金時代を築いた。そして現在のルクレールも、チーム首脳や技術陣と強固な連携を築き、イタリアメディアとの関係も良好だ。

 今年で在籍7年目。エースドライバーとしてはシューマッハの11年に次ぐ記録を誇る。来季以降の契約延長もすでに決まっており、ルクレールのフェラーリ内の地位はそれだけ強固ということだ。そこにハミルトンが割って入るのは、決して簡単なことではない。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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