ホーバスジャパンの大目標は28年ロス五輪での成功 アジアカップで54年ぶりの優勝以上に手に入れたいものは?
勝負師ではないが指導者としては傑出する
もっとも、彼は「勝負師」タイプではない。試合中の戦術の修正力などには課題を残している。タイムアウトの有効活用も苦手で、そのあたりは琉球ゴールデンキングスを率いてBリーグファイナルに4年連続で進出している桶谷大HCから学ぶべきだろう。
しかし、ホーバスHCの「指導者」としての能力は特筆すべきものがある。歴代の代表HCの中で最高レベルだ。選手の能力や人間性も、そしてチームという組織も成長させる手腕の持ち主である。
彼の指導の下、キャプテンとしての潜在能力を引き出されたのは富樫勇樹(千葉ジェッツ)だし、アスリートとしても人間としても成長を促されたのが比江島慎(宇都宮ブレックス)と言っても過言ではないだろう。
そして、能力を引き上げられた代表格が河村勇輝(シカゴ・ブルズ/2ウェイ契約)だ。
7位に終わった前回2022年のアジアカップでのこと。代表に定着しつつあった河村は、チームが勝つ確率を上げるため、周囲を活かすようなパスを散らすプレーを多く見せていた。
しかし、その姿勢に噛みついたのがホーバスHCだった。「パスばかり出していては、相手にとって怖い選手にはなれない」と。そして、その成果が表れたのが昨年のパリ五輪だった。グループリーグで3戦全敗に終わったとはいえ、日本代表の歴史上、世界の頂点にもっとも近づいたと言っていい大会で、チームをけん引したのが河村だった。それは数字の上でも証明されていた。
1試合の平均得点と平均アシスト数の両方で、河村が世界で3位に名を連ねたのだ。それこそが「パスを出しているだけでは怖くないよ!」と河村を𠮟咤激励したホーバスHCの指導の成果だった。シュートとパスの両方を高いレベルでこなせれば、本当に怖い選手になるというホーバスHCの見立ては正しかった。もちろん、それを可能にした河村の圧倒的な努力が最大の要因ではあるのだが。
ホーバスHCが河村に求めたのはそれだけではない。例えば、パリ五輪の直前には、プレー以外の部分で注文をつけている。当時の河村はこう話していた。
「トム(・ホーバス)さんから言われていたのは、パッション(を表現する)のところです。自分は元々そういうタイプではないですけど、そういった『良いボディランゲージ』でチームを少しでも鼓舞できればいいなと思いました」
パリ五輪でも、NBAの舞台でも、それまでよりも気持ちを前面に出す河村の姿が強く印象に残っている方も多いだろう。そうした感情表現を意図的に見せているのは、それが目の前の相手やチームに打ち勝つために重要な要素だと知ったからだ。
その河村にしても、パリ五輪の予選を兼ねた23年のFIBAワールドカップで大活躍した比江島にしても、ホーバスHCの指導についてこう口をそろえる。「すごく厳しい」と。一方で、このHCからは愛情も感じているし、バスケットボールを離れたところでの優しい一面も彼らは知っている。そんなところにも、ホーバスHCの「指導者」としての魅力が詰まっているのだろう。
ホーキンソンに悪者になれと言った理由
その分かりやすい1つの例が、ジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)と馬場雄大(所属先未定)の2人を今大会のキャプテンに任命したことだろう。
21年にホーバス体制がスタートしてからは、基本的には富樫と渡邊雄太(千葉ジェッツ)の2人で大役を担ってきた。しかし渡邊は、(日本代表の活動も含めた)アジアカップ後のシーズンに向けた肉体改造とコンディション作りのために、今大会を欠場する。富樫についても昨シーズンのBリーグ終盤戦で負った怪我の影響などが考慮され、今夏の活動はほぼ不参加。アジアカップ前の最後の仕上げとなったカタール遠征の直前に、代表へ復帰している。
そうした事情があるとはいえ、ホーキンソンと馬場のキャプテン任命には、2人にコート外も含めて成長してほしいというホーバスHCの想いが見え隠れする。このコーチはホーキンソンによくこう伝えている。
「キミはナイスガイだ。でも、ときにはチームのために“悪者”にならないといけないんだ!」
その意図は、チーム力や仲間のポテンシャルを引き上げるために、ときにチームメイトに対して耳の痛いことも言ってほしいということ。ホーキンソンもこう話している。
「その作業には苦しんでいるけど、(仲間の弱点や課題など)伝えるべきことを伝えられるようになれば、チーム力は上がっていく」