証言ドキュメント 大谷翔平と甲子園

高3大谷を県決勝で下した盛岡大附属に生まれた安心感 なぜ甲子園初戦で小兵左腕に封じられたのか?

上杉純也

【写真は共同】

 花巻東高のエースとして注目を集めた大谷翔平は、その卓越した才能と規格外のスケールで早くから「二刀流」の可能性を示していた。高校時代から160キロを超える速球を投げる一方、打者としても圧倒的な打球速度と飛距離を誇り、全国の野球関係者の視線を釘付けにした。その大谷と対戦した相手監督、選手、そしてチームメイトへのインタビューなどをまとめた書籍『証言ドキュメント 大谷翔平と甲子園』(上杉純也著)から高校3年夏の大谷擁する花巻東を県大会決勝で下した盛岡大附属の澤田真一総監督(当時)のインタビューを一部抜粋して公開します。

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「打てないわけがない」とか、「真っ直ぐは仕留めろ。お前ならできるだろう」

――大谷選手のような好投手を打ち崩すためには選手たちのメンタル面をフォローすることも重要だったと思います。例えば「打てるよ」っていう前向きな言葉ですよね。試合前にはそういう言葉をかけたりしたんでしょうか?

澤田 生徒たちにベストの力を発揮させるのは、指導者の責務なので、それはもう、もちろん一番大事なことかもしれませんね。指導者はいいこと、前向きなことを言う。アメリカのスポーツ界では〝ペップトーク〞って言うんですが、短い言葉で元気にトークする。ペップトークのペップは〝元気〞〝元気を出させる〞っていうね。それを持っているか持っていないかが、やっぱりそのチームの勢いに影響しますから。だから、とにかく自信を持たせるような言葉を掛けていましたよ。「打てないわけがない」とか、「真っ直ぐは仕留めろ。お前ならできるだろう」とかね。そうすると「行きます! 大丈夫です!」って前向きなことを言うわけですよ。練習中にもね、「今、こんな速いボール見えてるなんて凄えな!」とか、「お前、打ちすぎんなよ。本番までそのいい当たりを取っておけよ‼」とかね。そういうような言葉で元気を与えるってことが大事なんじゃないでしょうかね。

――ただ、大谷投手を攻略して甲子園出場を決めたものの、本番では初戦敗退。「何やってんの? しっかりしろよ盛岡大附!」って思った高校野球ファンは当時多かったと思います。

澤田 それはね、もう耳が痛い。本当におっしゃる通りです。やっぱりどこかで大谷くんを倒したっていう満足感というか、安心感っていうものがチーム全体に漂ってしまったかもしれません。「本番はこれからなんだぞ!」っていうような空気や雰囲気にあの短期間ではなかなか持っていけなかったっていう感じでしたね。本来なら「大谷くんを倒したんだから優勝しようぜ‼」ってならないとおかしいんですが、それがなかったんですよね。それは私の不徳の致すところだと思います。

――大谷投手を倒したことで何か満足してしまった感じだったわけですね?

澤田 そう思いますね。それが生徒にも伝播したんでしょうね。私たちが満足してしまっていた。やっぱり凄いピッチャーでしたからね。

のちに映像を確認したら、ファウルに見えましたね

――あのときの甲子園初戦の相手は立正大淞南(島根)でしたね。

澤田 試合のビデオを見たら、相手のピッチャー大したことないな、普通に打てるなっていう感じだったんです。うちの出口の力(投手としての総合的な力)を10だとすると、立正大淞南のエースだった山下真史くんは6点くらいかな。7点はないなっていう感じだったんです。でも、そういうようなことを思っている私たちがダメなんですよ。特に指導者はそう思っちゃダメなんです。「県を勝ち抜いて代表になったのだから、何かある、何かある」って思っていないと。で、やっぱり何かがあった。山下くんはストレートの外角の出し入れが絶妙で、右打者の内角へは絶対に投げてきませんでした。変化球もストライクからボールで、しかもほとんど浮くような変化球は投げてこなかったので、打っても内野ゴロにしかならなかったんです。だから彼は県大会を制したんだなって、納得しましたよね。身長は確か169センチくらい。170はなかったと記憶していますが、小さくてもコントロールの良さでエースになったんだなって。高校生にしてはもうプロ並みのコントロールでしたよ。やっぱりそういう投球術を持っていました。立正大淞南は強かったです。

――このあたりで聞きづらい質問をします。例の二橋選手の3ランですが、なかにはファウルではないかっていう声もあります。それでも、「あそこまで飛ばしたんだからバッターの勝ちでいい」って言う人もいます。正直なところ澤田監督はどう思いますか?

澤田 のちに映像を確認したら、ファウルに見えましたね。だから本当に、これはあまり声高に言ってはいけないことだと思うんですが、やっぱり主審、塁審含めて、ある程度力のある人がジャッジしてくれないと……とは思っています。東京なんかでは大学野球で審判をやっていた人じゃないと主審はできないとか、基準があったような気がします。岩手だとその基準が甘いというか。私、新聞にも掲載されたことがあるんですが、 審判の研修を大事にして欲しいと。

――なるほど。このジャッジ以降だと思うんですが、例えば県大会の決勝戦だけでもいいからビデオ判定を導入したら……っていうような声もあるんですが。

澤田 決勝は入れるべきだと思います。夏の大会の練習にもなるので、春の県大会の決勝から導入するとか。要はそれぞれの大会の決勝戦はビデオ判定を認めるっていうようなことを統一した方がいいんじゃないかなと思いますよね。

――今はもうないですけど、セーフとアウト、フェアとファウルの判定を巡って昔はよく暴動が起きていたっていう話がありますよね。

澤田 そうそう、そういうの、ありましたよね。結局、今も昔もファンあっての高校野球っていう側面もありますし、フェアプレーの精神を謳(うた)っているのですから、そういうことを考えると全試合は無理にしても、決勝戦だけはビデオ判定を導入すべきだと思います。

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