2008年6月18日、オールフォーヒロシマ結成 【8月集中連載】広島“街なかスタジアム”誕生秘話(10)
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2度目のJ2とスタジアムDJが抱いた危機感
「この子が小さい時、署名活動に連れて行ったんですよね」という母親に、メンバーのひとりが「それがこんなに大きくなるんだから、われわれもトシをとるわけだよね」と満面の笑みで頷く。メンバーの多くが、数年ぶりの再会だったようだ。
彼らはかつて「オールフォーヒロシマ」というグループに所属していた(正式な表記は「ALL FOR HIROSHIMA」だが、当連載ではカタカナ表記で統一)。メンバーの多くはサンフレッチェ広島のファン・サポーターであり、市民レベルで「街なかスタジアム」の建設を訴えてきた人々である。
オールフォーヒロシマが設立されたのは2008年6月18日。その年のサンフレッチェは、2度目のJ2を戦っていて、結果として勝ち点100のぶっちぎりで優勝とJ1復帰を果たしている。とはいえ、J1の中位よりやや下という予算規模を考えると、今後もJ1とJ2を行き来するエレベータークラブとなるのではないか――。それはクラブ関係者のみならず、心あるファン・サポーターもまた共有するところであった。
この日の宴には、オールフォーヒロシマ立ち上げ時のメンバーも参加していた。サンフレッチェの元スタジアムDJで、のちに広島市議会議員となる、石橋竜史である。1971年生まれの石橋は、当時の思いについてこのように語る。
「サンフレッチェのように、人口も商圏規模も限られる地方クラブが生き残るには、自分たちで優秀な選手を育成していくほかない。その方向性は間違いなかったし、実際に成果も表れていました。でも、それにはやはり限界があります」
スタジアムDJとして、肌感覚も含めて特に限界を感じていたのが、スタジアムの平均入場者数だったという。
「DJの仕事をさせていただいたのは、2000年から10年まででしたが、当時はどんなに頑張っても1万5000人くらい。ずっと1万人台で推移していました。平日の夜だと、5000人に届かない日もあったくらいです。ビッグアーチは5万人、実際には3万7000人くらい入りますから、ブースから見ていると本当にスカスカだったんですよ」
スポーツ先進国と地元・広島との彼我の差
1969年生まれの波田は、単なるサポーターではない。クラブのオフィシャル携帯サイト「TSSサンフレッチェ広島」を2004年に立ち上げ、『ひろしま満点ママ!!』という情報番組では、ユニフォーム姿でホームゲーム当日の天気予報を伝えていた。
地元メディアに身を置いていただけに、広島スポーツ界や行政の動きを鋭敏に察知していた波田は、広島市民球場移転問題の推移にも注目。やがて「跡地にスタジアムを建設できないだろうか」という期待を抱くこととなる。
「ちょうど市民球場の移転が決まって、跡地をどうするんだって議論になっていた時、『これは最初で最後のチャンスだろうな』と思ったんです。ビッグアーチのままだと、サンフレッチェの集客が頭打ちになるのは明らかでした。新しいスタジアムを作るんだったら、絶対に街なかがいい。そう考えた時、旧市民球場跡地がベストでした」
石橋も波田も、サンフレッチェのファン・サポーターの間では有名人であるが、両者には興味深い共通項があった。それは20代の時、海外のスポーツ文化をダイレクトに触れていたことだ。
石橋は地元の高校を卒業後、上京して芸能事務所に所属しながらタレントを目指していたが、1995年に渡米。ニューヨークを経てカナダのトロントに渡り、地元FM局でDJを務めていた。スポーツをエンターテインメントとして派手にショーアップする、現地の文化に大いに刺激を受けた石橋は、広島に戻ってからスタジアムDJとなる。
一方の波田は、大学時代に英国への短期留学を経験。留学先はイングランドのノリッジだった。ちょうどプレミアリーグが開幕したタイミング。波田は、ノリッジ・シティFCのホームスタジアム、キャロウ・ロードの熱狂的な雰囲気に圧倒される。余談ながらノリッジは、現在EFLチャンピオンシップ(実質2部)だが、1992−93シーズンのプレミアリーグでは3位に輝いている。
北米と英国の違いはあれ、スポーツ先進国の文化に浸っていた、石橋と波田。そんな彼らにとり、カープ一辺倒だった地元のスポーツ観戦環境に、愛着とは別の物足りなさを覚えるようになるのは、当然の成り行きであった。
6月18日、石橋は自身のブログの冒頭で《本日、立ち上げられましたプロジェクト!その名も単純明快 「ALL FOR HIROSHIMA」。》と書いている。
《あれは、いつの晩だったでしょうか? 夜中に妻と何気ない世間話をしていた時のこと…/「壮大な夢だけど、お世話になった広島の土地にサッカー専用スタジアムを建設して恩返しが出来ればな。きっとそこには笑顔が溢れるんだろうな」の話題が。(中略)/いずれにせよ、「何かアクションを起こさないと時間だけが無情に流れてしまう」と思っていた矢先、気象予報士の波田さんから驚愕するほど同様の意見が!》