サービスエースで劇的勝利呼んだ21歳・甲斐優斗 “世代No.1”の止まらぬ進化、VNLで見せた風格

田中夕子

22年に日本代表へ初選出され、国際経験を重ねている甲斐優斗 【Photo by Andrzej Iwanczuk/NurPhoto via Getty Images】

「もっと俺を出せよ」

 セット終盤、名前がコールされるだけで大歓声が沸き起こった。

「ナンバーフィフティーン、甲斐優斗!」

 声援の大きさには裏付けがある。リリーフサーバーとして、強烈なインパクトを残したのは7月16日、ネーションズリーグ千葉大会初戦のドイツ戦だった。

 第1セットをドイツに先取された後、2、3セットを日本が取り返す。セットカウント2対1で迎えた第4セット終盤24対20、日本がマッチポイントの場面で小野寺太志に代わってリリーフサーバーとして投入されたのが甲斐だ。

 そのときが訪れるのを待っていた、とばかりに、甲斐が放ったサーブはドイツコートのエンドラインぎりぎりの位置に、ノータッチで決まり25対20。改めてビデオジャッジによるイン、アウトの判定が会場のビジョンに映され、日本の勝利が確定した瞬間、甲斐は満面の笑みで両手を挙げた。

 まるでマンガかドラマのような劇的なフィナーレなのだが、さらに驚かされたのはそれが一度では終わらなかったことだ。
 
 翌日のアルゼンチン戦、1、2セットを連取された日本が第3セットを取り返しセットカウント2対1。甲斐に出番が巡ってきたのは第4セット終盤、19対20と1点を追う場面だった。

 リリーフサーバーとしては最大の見せどころ。とはいえ、その1本に期待が集まれば集まるほどプレッシャーにも変わる。だがそんな痺れる場面でも甲斐はいつも通り、笑顔でコートに立ち、しかも前夜に続くサービスエースでまたも両手を突き上げた。

 20対20の同点とした後、2本目のサーブも直接のポイントにこそならなかったが、相手のレシーブを乱し、スパイクミスを誘い21対20で日本が逆転。この1点を契機に抜け出した日本が4、5セットをそれぞれ25対23、15対13と2点差で制し、フルセットの末に勝利を収めた。

 コートからロッカールームへと向かう間のミックスゾーン、多くの記者に囲まれた甲斐はコートと同じく笑顔だった。リードされた前半、ベンチで戦況を見ながら「もっと俺を出せよ、と思う気持ちもあった」と笑いながら話す甲斐が、自身の見せ場を振り返る。

「緊張はなかったです。どんな場面で出されてもいける準備はしているし、終盤になればなるほど燃える。(試合を)楽しめました」

 そんな甲斐の姿を頼もしく見守りながらも、「ありえないですよね」と笑うのがネーションズリーグでチーム最多得点、全体でも8位となる184点を叩き出してきたオポジットの宮浦健人だ。甲斐とは日本代表だけでなく、2023/24シーズンはフランスリーグのパリ・バレーでも共にプレーし、幾度となく甲斐の大物ぶりを明かしてきたが、ネーションズリーグでも見せた頼もしい姿を、笑いながら称賛する。

「ほんとにすごいですよね。自分だったらああいう場面は『攻める』という気持ちが強くなりすぎて、力むこともあったんですけど、彼の場合はそういう気持ちを持っていても、常にあの感じで打てる。よく、甲斐は『何も考えていない』と言っていますけど、本当に何も考えていないんだな、って思います(笑)」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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