究極の中間管理職? F1チーム代表という仕事

柴田久仁夫

イギリスGPで指揮を取るホーナー 数日後に解任されるなど予想もしていなかったはずだ 【(c)Redbull】

ホーナー衝撃の解任劇

 それは、一つの時代の終わりを告げる出来事だった。

 今月9日、レッドブルはチーム代表のクリスチアン・ホーナーを解任した。

 エイドリアン・ニューウィら上級エンジニアの離脱、今季の成績不振、マックス・フェルスタッペン陣営との軋轢(あつれき)など、確かにホーナーはいくつもの火種を抱えていた。それでもこれまで何度もそうしてきたように、強力なリーダーシップと交渉力で今回もピンチを切り抜けるのでは。そんな期待は、唐突な幕切れによって裏切られることになる。

 更迭の決定打となったのは、レッドブル親会社による「支持の撤回」だった。

 レッドブルはF1参入初年度の2005年、当時は国際F3000(現FIA F2選手権)のチーム代表にすぎなかった31歳のホーナーに、チーム代表の大役を任せた。以来19年、レッドブルはホーナーの指揮の下、6回のコンストラクターズタイトル、8回のドライバーズタイトルを獲得し、セバスチアン・ベッテル、フェルスタッペンの二人のチャンピオンを輩出するF1屈指のトップチームに飛躍を遂げた。

 しかしそれだけの実績を持ってしても、ホーナーはチーム代表の座にとどまることができなかった。

「勝って当然」を強いられる現場の司令塔

エミリアロマーニャGPでの勝利を祝うホーナー(左はフェルスタッペン) 【(c)Redbull】

 表彰台でシャンパンシャワーに興じるドライバーたちを悠然と見上げ、ヒーローインタビューに答えるチーム代表の姿は、いかにも「勝者の顔」に見える。だが、その華やかな舞台裏には、僕たちの想像を超えるほどの調整と苦悩がある。ホーナーの退任劇は、その現実を赤裸々に浮き彫りにしたと言える。

 かつてのF1チームは、たとえばエンツォ・フェラーリやブルース・マクラーレン、あるいはフランク・ウィリアムズに代表されるように、チーム創設者がそのまま代表を務めることが普通だった。

 それが今は10チーム全ての代表が、オーナーと雇用契約を結んだ部下でしかない。当然、古き良き時代に比べれば、チーム代表の権限は大幅に制限されることになる。

 オーナーやメインスポンサーからは、結果を出すように恒常的にプレッシャーをかけられる。彼らの意向に耳を傾け、時には意に沿わない決断を下さざるを得ないこともある。

 一方でドライバーや現場のエンジニア、メカニック、さらにファクトリーのスタッフを含めれば1000人前後に達する従業員を束ねるマネージメント能力も求められる。他にもFIA(国際自動車連盟)やF1運営側との交渉、メディア対応、有力ドライバーやエンジニアのリクルートなどなど、やることは山ほどある。

 それでも結果を出している間は、わがの世の春を謳歌できる。しかしひとたび成績が下降線をたどれば、上からも下からも突き上げられ、磐石に見えた地位は一瞬にして危うくなる。サーキットやTV中継で眺める限りは絶対的な権力者に見えても、実は「経営陣と現場の板挟み」にあえぐ、中間管理職なのである。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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