データからも納得の町田が「叩かれなくなった」理由 新スタイル定着で“イメージ”も変わるか?

大島和人

町田は攻守が嚙み合い4連勝中 【写真は共同】

 言葉を選ばずに表現するならば、2024年はFC町田ゼルビアが「叩かれた」「憎まれた」シーズンだった。J1初昇格のチームが一時は首位を快走し、良くも悪くも目立つ存在だったことが前提にある。ファンは急増したし、逆に過大評価と感じる発信もあった。とはいえ昨今のSNS全盛時代の中で、全方位から「お叱り」を受ける日々だった。

 皆が躍進の理由を探す中で、ロングスローは盛んに取り上げられた。ロングスロー自体は間違いなく有効で、J1でも取り入れるチームの増えている戦術だ。ただ町田は「ボールをタオルで拭く」「時間を使う」ことを強く批判された。

 ダーティーなチームであるという印象づけも頻繁に目にした。確かに昨季の町田は警告の回数がJ1全体の4番目と多く、ファウルの数も全体2位だった。一時は試合のたびに町田のラフ(に見える)プレーがDAZNの中継から切り抜かれ、X(旧Twitter)などのSNSで面白おかしいコメントともに執拗に拡散されていた。

今季前半戦のデータで見る町田のリアル

 7月4日にJリーグから公開された「J STATS REPORT 2025 Q2」に興味深いデータがあった。それはセットプレーのリスタート時間で、町田は1回平均36.2秒とJ1全体で7番目に短いチームだった。プレー再開に時間を使うというファン、コメンタリーの先入観は今も根強いが、今季の町田は「プレー再開に時間をかけないチーム」だ。

 ロングスローやロングキックを多用するチームはアクチュアルプレーイングタイム(APT)も短くなりがちだが、そちらは51分9秒で昨季より2分近く伸びている。全体16位と今季もAPTが「短い」チームなことは事実だが、鹿島アントラーズ(50分13秒)やヴィッセル神戸(48分12秒)よりは長い。

 警告(イエローカード)は23試合で32枚と多いが、5月以降の10試合は6枚と明確に減っている。

 昨季の町田は「監督の握手が遅れた」「年上の監督に町田ベンチへ来させた」といった部分もお叱りのポイントになっていた。しかし黒田剛監督は昨季の途中から相手ベンチに握手の「先制攻撃」を仕掛けるケースが多い。会見場でもJリーグの監督らしい、程よくオブラートに包んだ抑制的なコメントが身についている。

 気づくと町田への批判がサッカーファンのコミュニティからほぼ消えている。2025シーズン序盤戦は「いいね稼ぎ」的な批判をまだ目にしたが、一時のような共感を得られなくなっていた。スタイルが安定していく中で「普通に強い」「ラフではない」といった感想を目にすることも増えた。

戻った「走り勝つ」スタイル

黒田監督はオフとトレーニングの「メリハリ」を強調する 【(C)J.LEAGUE】

 サッカーそのものにも変化が見て取れる。単純に布陣が[4-4-2]から[3-4-2-1]へ変わった。しかも昨季は夏場に減速したチームが、今季はそこで浮上している。4月後半には3連敗を喫し、5月も1勝2分け3敗と苦しんだが、その後は現在4連勝中。直近の2試合は第22節アルビレックス新潟戦が4-0、第23節・清水エスパルス戦に3-0と完勝している。

 しかも4連勝中の4試合すべてで「走行距離」が相手を上回っている。今季の町田は相手に走り負ける試合も多かったのだが、いくつかの理由で「走り勝つスタイル」が復活した。

 黒田剛監督は戦術、連携の深まりを一つの要因に挙げる。

「自信を持って相手に行けていることが、スプリントにもつながっていると思います。攻撃だけでなく、プレスバックも含めてです。ウイングバックもボックスからボックスのスプリントをサボらずにしっかりやれています」

 酷暑下で、コンディション管理は大きなポイントだった。黒田監督は6月29日の新潟戦を日曜に終えると、月火とオフを2日入れた。

「日光に当たることは疲労に繋がるし、今は色んな意味でコンディションが重要になる時期です。2年連続で7月、8月に足踏みしているところも反省材料になっています、やるところはしっかり鍛えつつメリハリをつけた方が、彼らもリフレッシュするだろうと考えました。(結果として)今まで以上に走行距離も上がっているし、スプリント回数も増えました。相手を上回る運動量を出しているからこその結果だとも思います」

大きな「脇役」の貢献

林幸多郎は運動量と状況判断で渋い貢献を見せている 【(C)J.LEAGUE】

 今の町田は相馬勇紀、西村拓真が攻撃における主役になっている。一方で現在の反転攻勢は主役を輝かせる「脇役」の貢献が大きい。

 バスケットボールではよく「守備のトーンをセットする」という表現を使う。第20節・湘南戦(2○1)から1トップの先発に抜擢され、「守備のトーンをセット」しているのが藤尾翔太だ。黒田監督はこう評する。

「スキルがそこまで長けていないことは分かっていると思うし、スピードもあるわけではありません。だけどチャンスをもらったときに『これを誰にも渡さない』というギラギラ感がありました。サボることなくプレーし、機能していることで序列を上げています。周りが連動しやすくなったり、彼のプレーが色々なものに影響しています」

 藤尾にオ・セフンのような高さ、強さは期待できない。相馬のような打開力を持っているわけでもない。しかし彼は相手のコースを限定しつつ、2度追い3度追いする守備の献身性に強みがある。攻撃も背後を突くスプリントが有効で、相手DFを押し下げつつ、仲間を前に出す貢献ができている。

 藤尾の起用によって、オ・セフンやミッチェル・デュークといった大型FWの出場時間は減った。一方でウイングバック(WB)の望月ヘンリー海輝が「ターゲットマン」になり、攻撃面で大きな貢献を見せている。192センチと長身で、スピードや跳躍力にも恵まれた彼はアメリカンフットボールのワイドレシーバーのような大外で「受ける」「競る」役割をしている。特に望月が左センターバック(CB)昌子源のサイドチェンジを受けるプレーは有効で、清水戦の得点にもつながった。

 左WBの林幸多郎は望月と全くタイプが違う。相馬が自由に1対1を仕掛けられている背景は林が相手を引き付ける、スペースを空ける動きを繰り返しているから。両サイドのプレーも、町田の好調を支える大きな要因だ。

 黒田監督は述べる。

「林、ヘンリーがかなりゴール前に絡めるようになってきたことが、我々の大きな成長だと思います。相馬、西村という2シャドーの武器があるがゆえに、このWBも生きています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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