「テニス選手というのはおかしな人たち」 大坂なおみがウィンブルドン敗戦後の会見で見せた自虐的なテニス愛

秋山英宏

大坂なおみはウィンブルドンで自己最高の3回戦の壁をまたしても破れなかった 【Photo by Hannah Peters/Getty Images】

順調と思われたが、2セット以降にまさかの失速

 大坂なおみのウィンブルドンは7月4日、大会折り返し点の手前で終幕を迎えた。

 アナスタシア・パブリュチェンコワのマッチポイント、大坂のフォアハンドは、すっぽ抜けた当たりになってベースラインを割った。打った瞬間の感触でアウトになると分かっただろう。それでもボールの行方を一度確かめ、それから小走りでネットに向かった。対戦相手と握手をかわすと、手早く荷物をまとめ、控えめに観客に挨拶してコートを去った。

 ハードコートが得意で、芝コートにはもともと苦手意識があった。それでも年を追うごとにコートに慣れ、「相性は確実に良くなっている。今回はもう少し勝ち進みたい」と話していた。自己最高に並ぶ3回戦進出を果たしたが、ベスト16入りはならなかった。

 今大会は「1ポイントずつ集中すること」がテーマだった。まずは一戦一戦、などと目標を口にする選手は多いが、大坂があえて「1ポイント」としたのには意味がある。自分自身への期待に押しつぶされないように、目の前のポイントに集中しようと努めたのだ。

 2回戦まではその心構えがプレーに映し出されていた。1回戦の相手は予選を勝ち上がったタリア・ギブソン(オーストラリア)。失うものがない21歳は、思いきり腕を振ってきた。強打の大坂が珍しくラリーで押される場面もあった。しかし、粘って拾い、相手のミスを誘った。強打に押されてエラーをしても、落胆の表情を見せなかった。

「メンタル面にフォーカスしている。集中を保つように努め、1ポイントごとに集中しようと自分に言い聞かせている」と話したように、精神面のコントロールがうまくいっていた。

 2回戦でも心身の歯車が噛み合った。対戦相手のカテリナ・シニアコバ(チェコ)には、2019年全仏オープンの3回戦で完敗していた。同年1月の全豪で2度目の四大大会優勝を飾った大坂は、第1シードで全仏に臨んだ。順調に序盤の2戦を乗り越え、さあこれからというところで、単複をこなすテクニシャンのシニアコバに足をすくわれた。筆者の目には、自分への期待の重さに負けたように見えた。だが、6年後の再戦は一方的な勝利となった。大坂は1回戦と同じようなコメントを残した。

「大会前にパトリック(・ムラトグルーコーチ)と期待値について話して、1ポイントずつ集中し、勝ち上がりについてはあまり考えないようにしている」

 ムラトグルーコーチは「ワンイシュー主義」とでも言えばいいのか、課題を一つに絞り、選手に一点集中させるのがうまい。大坂も歩調を合わせやすい様子で、師弟の思惑通りに試合が進んだ。

 そうして迎えた3回戦。パブリュチェンコワも強打の持ち主で、回転量の少ない直球系のストロークとサーブに威力がある。2回戦までの相手と大きく違うのは四大大会での実績だ。2018年ウィンブルドンで準々決勝進出、さらに2021年全仏準優勝など、すべての四大大会で8強入りを果たしている。

 出だしは大坂のペースだった。最初の3ゲームを連取。サービスゲームを落とす場面もあったが、動揺を見せず、第1セットを取った。

 印象的な場面があった。このセットの中盤からパブリュチェンコワの強打がコートに突き刺さり、大坂が押される場面が増えてきた。4-2でブレークを許したが、相手のウィナーを見送った大坂は、納得したようにうなずいた。相手の好プレーを受け入れ、冷静さを保っている。いい集中ができている証しと思われた。その印象は間違っていなかったのだろう。次のゲームで2度目のブレークに成功、大坂は流れを引き戻した。

 だからこそ、2セット以降の失速は予想外だった。第2セット、第3セットとも似たような展開だった。両セットとも0-3と先行を許した。すぐに追いついて3-3としたのも同じ。そして、最後は相手の圧力を受け止めきれなかった。

 大坂は「悔やむことはあまりない」と振り返った。確かに、精神的に崩れて負けたわけではない。太ももを叩いて悔しがる場面、ラケットを叩きつけそうになる場面こそあったが、「1ポイントへの集中」は貫いた。紙一重の敗戦、そして、あえて言うなら力負けだった。

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著者プロフィール

テニスライターとして雑誌、新聞、通信社で執筆。国内外の大会を現地で取材する。四大大会初取材は1989年ウィンブルドン。『頂点への道』(文藝春秋)は錦織圭との共著。日本テニス協会の委嘱で広報部副部長を務める。

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