山口茜が初の実業団MVP、志田千陽と夢コンビで優勝導く

平野貴也

山口のダブルス起用に2つの背景

準決勝では、本来の「シダマツ」ペアが起用されていた 【平野貴也】

 志田と山口のペアが実現した背景には、松山のコンディションと、池田監督の思いがあった。

 松山は、腰を痛めたため、5月末から6月上旬にかけて予定していた国際大会の出場をキャンセル。7月のダイハツジャパンオープンに向けて再調整の段階だ。そのため、今大会に向けて、志田は加藤佑奈や山口と練習してきた。しかし、松山の状態が回復傾向にあり、本人に出場の意思もあったため、準決勝では本来の「シダマツ」ペアで起用。松山は「悪くはないけど、油断したらダメ。自分の中で制限しながらしっかり動ければ。最近、ケガが続いていて試合勘の部分で不安があったし、ジャパンオープンで勝ちたいという気持ちもあるので、実業団選手権も出たいとスタッフに伝えた」と話していた。チーム内では、翌日の決勝も志田/松山で起用する方針だったが「朝起きたら試合のダメージがあった」(池田監督)ため、当日になって山口の起用に変更になったという。

 ただ、山口の2種目起用は、池田監督の頭の中には元々あったプランでもあった。準決勝の後で、池田監督は「山口にMVPを獲得させたいという個人的な目標がある」とも話していた。2複1単のS/Jリーグ、2複3単の実業団選手権は、ともにダブルス種目から始まる。どちらも、決勝トーナメントでは、チームの勝敗が決まった時点で打ち切りとなる。特に、実業団選手権はダブルス2試合が先。シングルスは2番手、3番手に回ると、出番が来ないケースが多い。実際に、山口は準々決勝で第3シングルス(第1ダブルスにも出場)、準決勝で第2シングルスに入っていたが、出番が回って来なかった。個人賞の選定においては、ダブルス出場者が評価される傾向が強いと感じている池田監督は、出場した試合での勝率が高い山口が、国内の団体戦で一度もMVPを受賞していないため、長くチームをけん引している最大の功労者にMVPを獲得させられないかと考えていた。

14年ぶり実現で輝いた、貴重なドリームペア

準々決勝でもペアを組んだ山口(右)と志田。終始、笑顔が多かった 【平野貴也】

 もちろんチームが負けてしまっては元も子もない。池田監督は「(チームが)勝たなければいけないので、個人の思いに固執することはできない。山口を2種目に起用して、ケガをする可能性が怖かったけど、今までの付き合いの中で、山口は想像していなかったことに挑戦するときが盛り上がりを見せる部分もあるので、これは1複、1単で起用だと腹をくくった。その期待を見事に体現してくれるのが、やっぱり、さすが山口だなと思います」と決勝戦の舞台での過酷なオーダーに結果で応えたエースを称賛した。

 五輪に3大会連続で出場し、世界選手権2度優勝など世界でもトップクラスの実績を持つ山口が、国内団体戦のMVPを獲得するのが初めてというのは、確かに意外なところ。志田と一緒にトロフィーを手にした山口だが、数々のトロフィーやメダルを獲得して来ている上、目立ちたがり屋とは程遠い、おとなしい性格。団体戦で重視するのは、チームの勝利。個人賞の受賞について聞いても、喜びの表現は「うん?」と少し笑う程度ではあったが、種目を問わずに会場を沸かせたプレーは、MVPにふさわしいものだった。志田とのペアで公式戦のダブルスに出場したのは、ANAアジアユースジャパン2011のU15カテゴリーで優勝して以来だというが、強かった。優勝への貢献度だけでなく、プレー内容も、仲良しコンビの笑顔も輝いた、貴重なドリームペアが印象に残る大会となった。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント