東大生がカバディでMVP アジア大会を目指す異色エースの挑戦

平野貴也

カバディのチャレンジカップでMVPに輝いた今福優作 【平野貴也】

 MVPに輝いたのは、現役の東大生だった。6月15日、第9回カバディチャレンジカップ最終日が行われ、男子はWASEDA MONSTERSが優勝を飾った。早稲田大学の公認サークルによるチームで、同大学の学生が主力だが、マイナー競技で活動場所が限られるため、大会毎にOBや他大学の学生も参加している。大会MVPに輝いたのは、その中の一人、東京大学4年生の今福優作だ。MVP選出の際には、自身よりも仲間が歓喜。閉会式の列から押し出されるようにして表彰を受けると、賞状を片手にはにかんだ。

 今回のチャレンジカップは、学生または日本カバディ協会への会員登録後4年未満の選のみが出場。競技歴の浅い選手が多い、いわば「新人大会」だ。攻撃のエース格としてチームをけん引した今福は「2月の全日本学生大会は、チームでまとまって優勝できたのですが、4年生だった主力が大学を卒業して、4月から新体制。それでも良い結果を得られて良かったです」と優勝を喜んだ。

日本代表監督も納得のMVP選出

 カバディは、鬼ごっことドッジボールを組み合わせたようなルールの競技だ。ドッジボールに似たコートで、攻撃側は一人だけ敵陣に入る。守備者と接触して自陣に戻れば、接触した人数分の得点が得られ、なおかつ接触した相手を一時的にコートの外へ追い出せる。攻撃の無得点での帰陣は、連続2回まで。守備側は、相手に接触を許さないか、あるいは帰陣を阻むかで得点を得られ、攻撃者を一時的にコート外へ追い出せる。

 今福は、攻撃のエース。コートの角に一人の相手を追い込み、相手の仲間が囲い込みに来ると、急に方向を変え、寄ってきた相手にタッチを決めて帰陣するプレーが何度も見られた。「決勝では、苦しい場面で点を取った感覚がなく、味方の安定した守備に救われた部分が大きかった」と話したが、1点差の接戦だった準決勝では、攻撃で何度も複数得点を決め、逆転勝利に貢献。視察していた日本代表の新田晃千監督は「今日は、ほかの選手を選べないでしょう」と今福のMVP選出に納得の表情だった。

漫画、コロナ禍、バブルサッカー……迷路のような競技への入り口

 それにしても、なぜ東大生がカバディというマイナー競技の道を進むようになったのか。入り口は、漫画だった。利用していた漫画アプリで2015年から24年7月まで9年にわたって連載された人気漫画『灼熱カバディ』の愛読者になった。競技者に変わるのに、さらに二つのきっかけがあった。一つは、2020年に起きたコロナ禍だ。今福は神奈川・聖光学院高校の出身。高校時代は、ディベート同好会で活動するなど、運動部には無縁。しかし、コロナ禍で外出制限がかかる暮らしをするうちに「とにかく身体を動かしたい気持ちになった」と振り返った今福は、活動制限が解除されると、友人を集めて、漫画で知ったカバディのルールで遊ぶようになった。

 その後、見事に東京大学に合格。サークルを探していた。高校でディベート同好会に入った理由の一つが、マイナーなジャンルであれば、活躍できるチャンスが大きくなること。似た基準で探して目についたのは、空気を入れてふくらませたウレタン素材を上半身にかぶって行うバブルサッカーだった。しかし、勧誘を受けた場で「ほかにやりたいサークルはないの?」と聞かれてカバディを挙げると、なぜか「早稲田にサークルがあって、自分もやっている。一緒に行こう」とカバディに誘われた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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