週刊MLBレポート2025(毎週木曜日更新)

電撃投手復帰の大谷翔平が投じた復活の28球「次も投げられそう、その雰囲気があることが一歩前進」

丹羽政善

16日(※日時はすべて現地時間)のパドレス戦で663日ぶりの投手復帰を果たした大谷翔平 【Photo by Katelyn Mulcahy/MLB Photos via Getty Images】

 復帰初球をファンの熱気を感じながら見ようと、記者席がある5階からエレベーターを乗り継いで、下の客席階へ。

 普段なら、通路からフィールド全体が見渡せる。しかし、ネット裏の通路には二重、三重に人垣ができていて、大谷翔平(ドジャース)の姿が、みんなが掲げているスマホのモニター越しでしか確認できない。背伸びをしたところで、無駄だった。

 三塁側に歩きながら、マウンドが見えるところを探していると、三塁と左翼の間まで来ていた。そこでも客席の最後列の人が揃って立ち上がっているので、人の隙間から、かろうじて大谷の姿が見える程度。彼らが座って、ようやく視界が開けたのは、先頭のフェルナンド・タティスJr.(パドレス)が、詰まりながらもセンター前に落としたとき。ため息を合図に、1人、また1人と、ゆっくりと座り始めた。

 その打たれた球は、99マイル。大谷は、もう一度大きなケガをすれば、投手をあきらめることを仄めかしている。であるなら、多少はブレーキをかけるかと思ったが、2人目――ルイス・アラエスの4球目に100マイルを記録。周りからどよめきが聞こえた。

 大丈夫なのか? むしろ心配になったが、大谷本人も「なるべく、95~96ぐらいで、投げたいなと思っていた」と苦笑い。「試合のレベルでマウンドに行くと、上がってしまう」と続けた。デイブ・ロバーツ監督も、「ちょっと心配になった」と話したが、仕方がない、という口ぶり。「彼は競争心が激しいし、100マイルを投げられるなら、そうなってしまっても、理解できる」。

集中して、試合に入りすぎた復活マウンド

1回、二死二塁のピンチを切り抜け、小さくガッツポーズをしてベンチに戻る大谷 【写真は共同】

 それにしても、よく1点で凌いだ。タティスJr.のヒットの後、ワイルドピッチで無死二塁となった。アラエスにもヒットを許して無死一、三塁。その時点で、すでに12球。マニー・マチャドにも粘られ、犠牲フライで1点を許したときの球数は18球。次に1本が出れば、交代も考えられた。

 そのとき、コロナ禍に無観客のオークランド・コロシアムで見た1回目のトミー・ジョン手術からの復帰戦を思い出していた。

 2020年7月26日――あのときは、先頭のマーカス・セミエンにヒットを許した後、3連続四球で押し出し。その後、連打で5点を失うと、大谷は1死も奪えず、降板を告げられた。

 今回も、4番のガビン・シーツの二塁ゴロが内野安打になっていたら……。あの打球に対して、大谷はカバーが遅れた。しかし、あの一、二塁間のゴロを取れなかったフレディ・フリーマンが素早く一塁に戻り、難を逃れている。実は、今日の試合で一番のターニングポイントだったかもしれない。

 大谷は続くザンダー・ボガーツを三塁ゴロに仕留め、1回を投げ切った。ロバーツ監督は試合後、「30球は投げさせたくなかった」と振り返り、「いずれにしてもボガーツが最後だった」と話したが、大谷は28球で復帰戦をまとめた。「結果的には、そこまでいい結果だったと言えないですけど」と大谷。「まず今日、投げ終えて、次も投げられそうなんで、その雰囲気があることがまず、一歩前進かな」と安堵の表情を浮かべている。

 なお、ボガーツがアウトになった瞬間、スタンドからは地鳴りを伴う歓声が沸き、大谷はスタンディングオベーションを背に、ゆっくりとマウンドを降りたが、彼には試合中も含め、ファンの熱量を感じる余裕がなかったという。

「本当に、バッターに集中をしていて、今日に関しては、(試合に)入りすぎてたぐらいの感じだった。次からリラックスして、それを見られるぐらいがいいんじゃないかなと思う」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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