「阪神のスカウトは凄い」成長が想像できなかった下位指名選手とは? 元中日チーフスカウトが明かす秘話
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5位指名から2000本安打を達成した大島洋平
前年には1位で同じ社会人の外野手、しかも同じ左投げ左打ちで駒澤大では大島の1年先輩でもあった日本通運の野本圭を指名していたが、それでも指名した。
こんなことを言うと今はスカウトで頑張っている野本に怒られるが、野本はインコースが打てなかったから私も1位で獲るほどの評価はしていなかった。だが大島はそのインコースを打つことができた。
野本1位のときはスカウト部長の中田宗男さんが東海大相模の大田泰示(巨人1位)を推して、監督の落合さんが野本を推した。中田さんは「野本1位でいくなら私を罷免してからにしてください」とまで言ったが最後は押し切られて野本になった。ドラフトが終わってから中田さんが悔しそうにしていたから「中田さん、来年良い選手がいてます。駒澤大出身の森(繁和)さんもおるから(落合さんも)絶対反対しません」と話したことを覚えている。
だが大島はその翌年、大事なドラフト解禁の年に手首を骨折してしまった。復帰することができたのはドラフトも迫っていた9月のことだった。
「大島が出るようになったら連絡下さい」と言っていた日本生命から「今日出ますよ」と連絡をもらい、急遽中田さんに付き合ってもらうことになった。
グラウンドに着いたのは試合の終盤。日本生命のグラウンドはちょっと階段を登った先にあるのだが、登り切ってグラウンドが開けた瞬間にセンターの大島のところにちょうど打球が飛んだ。「あれが大島です」と中田さんに言うと、大島はそれを捕って矢のような送球でランナーを刺した。それでスリーアウトになって次の回の攻撃が大島からだった。その打席で大島はインコースの真っ直ぐをスカーン! と打ち返し俊足を飛ばして二塁に到達した。それを見た中田さんは「ヨネ、帰ろう」と席を立とうとした。まだ7回。最終回に打席が回ってくる可能性もあったが「もうええから。監督に獲る言うとけ」と中田さんは席を立って別の試合会場へ向かった。
大島の捕る、投げる、打つ、走るをわずか数分の間に見ることができ、中田さんはもうそれだけで「大島は間違いない」と判断した。
器が大きかった落合監督
市立西宮の山本拓実(2017年6位)を見た時もそう。中田さんに「面白いピッチャーがいるから見に来てください」とお願いしたら身長を聞かれ、167センチだと答えると「そんな小さいピッチャーがプロに入って活躍できると思ってんのか!」と怒られた。「いや、良いピッチャーだと思いますよ。球が速いですし浮き上がりますよ」と言ったが、中田さんは当初は獲る気が全くなかった。
だが、たまたま中田さんが見る予定だった関東での試合が雨で流れ、その日がたまたま夏の兵庫県大会準々決勝で市立西宮が報徳学園と試合をする日だったことから「報徳の試合、山本が投げるよな? それ見て判断するわ」と、急遽中田さんが兵庫まで試合を見に来ることになった。山本はその試合に敗れたものの良いピッチングを見せた。
試合後に中田さんは「監督に獲る言うとけ」と指名を即決した。
山本は1年目から一軍マウンドを踏み、2年目には7試合に先発して3勝を挙げるなど早くから頭角を現した。5年目に立浪監督になってからは主に中継ぎで30試合に登板し、翌年途中には日本ハムにトレードされ二球団で40試合に登板。以後は中継ぎとして活躍している。
スカウト会議で私は大島を獲りたいと話した。監督の落合さんは「ヨネ、そんなに良い選手なのか?」と聞くから、私は「野本より良いと思います」と言い切った。それに対して落合さんも「分かった。じゃあ獲ろう」と言ってくれた。
大島の獲得は普通だったら嫌がると思う。なぜなら野本を獲るときに落合さんは「開幕30試合、野本を使うから1位で行ってくれ」と言っていて、その30試合で野本が結果を残せなかったからだ。普通であれば自分の面子もあるから、同じような選手を翌年にスカウトが獲りたいと言ってきたら嫌がるものだ。
まわりが落合さんのことをどう思っているかは知らないが、私は器の大きい人だと思っている。