樋口新葉が世界選手権で得た充実感「今までとは全然感覚が違った」 自分を大事にして臨む、3度目の五輪シーズン

沢田聡子

「納得して滑り終わった上で、結果はついてくるもの」

親友・坂本花織(左)と福岡旅行に行ってきたという 【Photo by Joosep Martinson - International Skating Union via Getty Images】

――世界国別対抗戦が終わった後のミックスゾーンで、坂本花織選手が「オフに樋口選手と国内旅行に行きたい」と言っていました。

 先週、福岡に行ってきました。1泊しかできなかったんですけど、「何とか予定を合わせよう」って。本当に時間がなかったので、とりあえず食べたいものを食べて、行きたいところに行って、あとはもうほとんど部屋で話したり寝たり、自分たちを癒す時間に使いました。普段あまり会えないですし、本当にずーっと話していてそれでも足りないぐらい。連絡をとったりもするんですけど、やっぱり会って話す方がいいですし。今までのこと、これからのこともたくさん話したりして、お互いに「うまくいくといいね」って。

 かおちゃんと出会ったのは小学生くらいだったんですけど、ここまでいろいろな話ができるようになったのは、シニアに上がってからです。それまでは家も遠いし話す機会はなかったのですが、試合に一緒に行く機会が増えたり合宿があったりして、すごく話すようになりました。過去にいろいろあって、(自分は)周りの人をあまり信用できない感じがありました。でもかおちゃんとは、ちょっとずつ話していく中で「この人は大丈夫だ」って、自分も心が開けるようになって。それからは勉強になる話もできるようになったので、すごく大事な友達です。

――来季のプログラムについては、どういう状況でしょうか?

 ショート『マイ・ウェイ』はジェフリー・バトルさん、映画『ワンダーウーマン』の曲を使うフリーはシェイ=リーンさんの振付で、両方とも作り終えました。大きな区切りのシーズンだと思っているので、「どういう曲にしようかな」と考えてしまってなかなか決まらなかったんですけど、どちらもすごくいいプログラムが作れたと思います。まだ試合で滑っているところが想像できないんですけど、納得いくように滑れればすごくいいと思うし、「そこに結果がついてくると一番いいな」という想像はしています。

――今、トリプルアクセルに取り組む必要は感じていますか?

 復帰してからは、昨シーズンに1回試合で跳んでいます(2023年全日本選手権・フリー)。(トリプルアクセルが)あったら、自分の良さとしては出せるかもしれないんですけど、(基礎点の)120パーセントぐらい点数がついてくれないと困るなというのがあって。そうなると、他のジャンプのリスクも考えた上で、わざわざアクセルを入れてリスクを高めるよりは、たとえばつなぎの部分の振り付けを変えたり、スピンで点数を稼いだり、いろいろ方法があるなと感じています。自分がやりたいか・やりたくないか、満足度というか納得感の問題だと思うので、本当にそこだけかなと思っちゃいますね。練習も、今はしていないです。

 試合でトリプルアクセルが跳べるまでは、そこにこだわり続けていました。でも、やっても勝てなかった部分もあったし、やってできたという事実を作って満足した自分もいました。でもトリプルアクセルがなくても何かを表現できるし、自分がやりたいことがあるというのも確認できたので。それは本当にその時によって、もちろんできるようにする準備は必要かもしれないですけど……。

 やっぱり自分の気持ちを大事にして、どういうふうに滑り終わりたいかと思ったときに、トリプルアクセルが必要なのか・必要じゃないのか。例えばショーで跳べても満足するのかと考えたときに、「別に、必ず跳ばないといけないという感じではないのかな」と思っていて。演技を綺麗にまとめたらそれだけ点数が出ますし、トリプルアクセルが自分の負担になってしまうなら、勝つためにもない方がいいのかなと。それも一つの戦略なのかなと思います。

――ご自分の納得感を大事にしている感じがします。

 実際大事ではあるんですけど、今までは順位や点数にこだわっていました。それで全然自分のことを受け入れられないというか、結果を見て「自分がやってきたことはダメだったんだな」と思うことの方が多くて。でも、「そうじゃないのかもしれないな」と気づきました。別にやってきたことが間違っていたわけじゃないけど、ただただ結果が出なかっただけというか。それよりも、自分が満足して、納得して滑り終わった上で結果はついてくるもの、という意識をすごく強く持つようになりました。

 せっかく競技をやっているのに、ただ結果だけを気にするよりは、やっぱり自分の気持ち、「どういうふうに滑りたいか」を大事にして滑った方が、これからにつながるなと思っています。スケートが競技人生だけですべて終わりだったら結果だけ見ればいいと思うんですけど、「そうじゃない」と思い始めたので。これからどう自分が滑りたいか、どういう表現をしたいかを見ている人たちに伝えるときに大事なのは自分の気持ちだと思うので、そこはすごく考えるきっかけになりました。

――休養中に視野が広がったことも大きいのでしょうか。

 そうですね。休養している時はスケートをちょっと離れて、学校に通ったり、スケート競技に関係がない人と話をしたりしていました。本当にいろいろな人と触れ合って、いろいろなことを考える時間があって。そこで、「スケートだけに縛られていたな」と感じてしまったんです。そうじゃなくて、「普通に生きているけど、やっぱり大事にしたいものがスケート」というふうに考えが変わったというか。

 本当に自分のことを大事にして、「自分がどうしたいか」と考えたときに、競技をするなら結果を残したいなと思って。ただ、「それだけではない」という思いもあります。すごくこの2、3年で大きく変わったなと思っていて、そのきっかけとなったのが、やっぱりオリンピックに出られたことだと思います。自分の中で大きな目標としていたオリンピックに出たということが、すごく重要なポイントだったんだろうなって。

樋口新葉(ひぐち・わかば)

【スポーツナビ】

2001年1月2日生まれ。東京都出身。ノエビア所属。スピードを落とさずに跳ぶ大きなジャンプでジュニア時代から注目を集め、世界ジュニア選手権では2015・2016年に銅メダルを獲得。シニア2シーズン目に出場した2017年全日本選手権では怪我の影響もあり4位となり、惜しくも平昌五輪代表入りはならず。4年後、2022年北京五輪代表選考がかかった2021年の全日本選手権では2位となり、悲願の五輪出場を果たす。観る者の琴線に触れる表現力も持ち味。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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