クラブW杯に出場する欧州勢の“本気度”は? 全12チームの中で最もタイトルを欲しているのは…

片野道郎

大幅にリニューアルされた今回のクラブW杯には、欧州から12チームが参戦する。R・マドリーやマンチェスター・Cなど世界的なクラブばかりだ 【Photo by Edith Robbie Jay Barratt - AMA/Edith Geuppert - GES Sportfoto/Getty Images】

 参加チーム数も賞金額も大幅に増え、格段にスケールアップした今年のクラブワールドカップ。全12チームが参戦する欧州勢は、果たして今大会にどれだけ真剣に臨むのか。イタリアを拠点に欧州サッカーを長年追い続ける片野道郎氏は、出場クラブはもちろん、マスコミやファンの注目度もこれまでとは比較にならないほど大きいという。

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これまで欧州では関心が低く、盛り上がりもなかったが…

 参加32チームという超拡大フォーマットで行われる新クラブW杯の開催が近づいてきた。これまでは毎シーズン冬場に、各大陸連盟のチャンピオンと開催国王者の計7チームを集めて行われてきたが、今大会からは従来のFIFAコンフェデレーションズカップの枠を使う形で、4年に1回(W杯の前年)、代表チーム版のW杯とほぼ同じ形態で大々的に開催されることになった。

 今回ヨーロッパからは、過去4シーズン(2020-21~23-24)のUEFAチャンピオンズリーグ優勝チーム(チェルシー、マンチェスター・シティ、レアル・マドリー)に加え、UEFAクラブランキング上位のバイエルン、パリ・サンジェルマン(PSG)、ドルトムント、インテル、ポルト、アトレティコ・マドリー、ベンフィカ、ユベントス、ザルツブルクの12チームが出場する。

 周知の通り、各大陸連盟から1チームずつが参加するこれまでのフォーマットでは、大きな番狂わせがない限り決勝はヨーロッパと南米の対決になり、ほとんどの場合ヨーロッパのクラブが優勝してきた。それもあって、ヨーロッパではマスコミやサッカーファンの間でこの大会への関心が低く、盛り上がりもほとんどなかったと言っていい。たとえば筆者の暮らすイタリアでは、少しでも注目されるのは自国のチームが出場している時のみ。しかも本当に関心を持つのは出場チームのサポーターだけというのが普通だった。

 しかし、32チームによる拡大フォーマットとなった今回は、話が少々異なっている。代表のW杯と同様シーズン終了後の6~7月開催、ヨーロッパの7カ国から12チームが出場、DAZNが全試合無料配信ということもあり、大会への注目度はこれまでとは比較にならないほど大きい。そして何より、出場するクラブの「本気度」も桁違いだ。

優勝すれば欧州CL優勝と同規模の収入が得られる

今大会で頂点に立てば、その賞金総額はUEFAチャンピオンズリーグ優勝クラブのそれに匹敵する 【Photo by Marcel ter Bals/DeFodi Images/DeFodi via Getty Images】

 もちろんそれには相応の理由がある。最も大きいのは、この大会でのパフォーマンスと結果が、ピッチ上はもちろんピッチ外まで含めたクラブの競争力に大きな影響を及ぼすと予想されること。

 まず、総額10億ドル(約1,400億円)とされる賞金の魅力が大きいことは言うまでもない。もしヨーロッパのクラブが優勝すれば、成績による賞金と参加賞金を合わせて、最大2億ドル(約280億円)を超える収入が得られる。これはUEFAチャンピオンズリーグで優勝したクラブが得る収入と肩を並べる規模であり、そのレベルのクラブにとってすら年間の収入を20~30%アップさせる金額だ。

 それだけではない。この大会はUEFAチャンピオンズリーグと同じかそれ以上に、世界のサッカーファンに対してクラブの魅力をアピールする機会になり得る。

 スポンサーやマーケティングといった分野において、ヨーロッパ内の市場はすでに飽和しており、欧州の頂点を争うメガクラブの競争の舞台は、北米、アジアを中心とするグローバル市場へと移っている。アメリカ、中国、インドネシア、インドといった巨大市場において、SNSを含めたメディア露出、マーチャンダイジング、スポンサー開拓といったビジネス面での競争で優位に立てるかどうかは、この大会に出場するヨーロッパのクラブにとっては生命線と言っていいほどの重要性を持っている。

 結局はカネの話か、と思われるかもしれない。しかし、欧州トップレベルのクラブ間国際競争においては、チーム強化にどれだけカネをかけられるかが、ピッチ上の競争力に直結する。これが身も蓋もない厳しい現実である。

 たとえば、先頃のUEFAチャンピオンズリーグ決勝を戦ったPSGとインテルでは、クラブの収入、強化予算、チームの給与総額のいずれにおいても2倍以上の差があった。5-0という一方的な結果に、それがまったく反映していないと言うことは難しい。

 インテルのようにグローバル市場での競争力において後れを取っているクラブにとって、このクラブW杯がもたらしてくれるブランド力(人気とステータス)の向上や直接的な賞金収入は、この差を挽回するうえで非常に大きなチャンスになる。もちろん、すでに競争をリードしているR・マドリーやマンチェスター・C、バイエルンのようなクラブにとっては、その地位をさらに盤石にする機会でもあるわけだ。

 長いシーズンを戦い抜いたチームがへとへとに疲弊しているにもかかわらず、参加するヨーロッパ勢の中に今大会を軽く見るクラブがひとつもおらず、どこも「本気度」満々である理由も、まさにそこにある。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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