週刊MLBレポート2025(毎週木曜日更新)

相手投手に考えさせている時点で大谷翔平に軍配? “初球の攻防”から読み取れる凄み

丹羽政善

2日(※日時はすべて現地時間)のメッツ戦、初球をとらえ、打った瞬間に確信する23号ソロを放った大谷 【写真は共同】

イチローが経験した“初球を振るな”縛り

 有名な話がある。

 イチローさん(現マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)は2004年、262安打を放ってメジャーの年間最多安打記録を更新したが、あの年、4月は超スローペースだった。打率は.255で、月間安打はわずか26本。もともとスロースターターで、4月を助走期間と位置付けていたものの、あの年に限っては理由があった。

 “初球を振るな”

 そんな縛りがあったのである。

 何年か経って、当時の打撃コーチだったポール・モリターが、裏を明かしている。

「イチローの積極性を奪うつもりはないが、『初球はボール気味』がイチローの攻めのセオリーになっていた。それを見逃せば1ボール。振ってファウルになれば1ストライク。1ボールになるだけで、相手が2球目にストライクを投げる確率が高くなる。ベース上の勝負ならば、イチローに分がある」

 実際のところ、現役時代に3319安打を放ち、イチローさん同様、コンタクトヒッターだったモリターは、制限することに反対だった。

「個人的な経験から言えば。彼は、そういうタイプの打者でもなかった」

 ただ、彼の判断でもなく、ボブ・メルビン監督(当時。現ジャイアンツ監督)の判断でもなく、ビル・バベシGM(ゼネラルマネジャー/当時)の指示だった。“四球が増えれば、もっと出塁率が上がるはず”という考えが背景にあったが、イチローさんも納得して受け入れている。

「ある程度たくさんのピッチャーを見させてもらって、リスクを冒して1球目から攻撃しなくてもいいと考えられるピッチャーもたくさんいるわけですよ」

 ボール球に手を出してしまって凡退することをリスクと捉えた。

「つまり、1ストライクと追い込まれてからでも、十分対応できるピッチャーっていうのはいますから。その人たちに対して、1球目から……もちろんチャンスもあるんだけど、そこでリスクを冒す必要性というのはだんだん少なくなってきたんですよ、僕の中では」

 ところが、狙い通りの結果にならなかったことで、4月の終わりに縛りが解除された。途端に、ヒットを量産し始めた。

 モリターは、自虐的に言った。

「『自由に打ってもらって構わない』という話をしたら、打ち出した。あれは私が打撃コーチとして与えた最高のアドバイスだった」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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