“後継者”アルカラス、ナダルと1日違いの快挙を達成 宿命の地で成し遂げた劇的な逆転優勝

山口奈緒美

2セットダウン後、0-40という窮地から劇的な逆転勝利を収めたアルカラス 【写真:REX/アフロ】

ナダルとの宿命的な縁

 前人未到のローランギャロス“V14”を打ち立てたクレーコートの帝王、ラファエル・ナダルとの惜別のセレモニーから展開した今回の全仏オープンだった。皆で赤土色のTシャツを着てスタンドの一体感を演出した1万5000人のファンの中に、若きディフェンディング・チャンピオン、カルロス・アルカラスの姿もあった。その姿を目に焼き付け、瞳を潤ませていたトップ選手は他にもいたが、アルカラスほど宿命的な縁でつながっていた選手はいなかっただろう。

「ラファは僕がテニスに興味を持ったころからの憧れ。彼の最後の試合とお別れのセレモニーに立ち会うことができたことは、僕にとって特別な出来事だった」

 1年前、全仏オープンでのナダル最後の一戦もスタンドから見つめていた。その1カ月後、同じ舞台で行われたパリ・オリンピックでは、ナダルとダブルスを組んで話題をさらった。2023年に連覇を狙ったUSオープンでノースリーブのシャツが話題になったとき、「これを着るときはラファのことを考えている。ラファはノースリーブを着てここでも優勝したしね」と破顔した。ドリンクボトルの正面をきちんと揃えて丁寧に並べる、ナダルの象徴的な“儀式”も踏襲してきた。

 丸刈りで髭面だったアルカラスは、ロン毛に海賊ルックで旋風を巻き起こした10代のナダルと見た目のタイプこそ異なるが、15歳でチャレンジャー大会に出場し始めたころにはもう「ナダルの後継者」と目されていた。それを重荷に感じて苦しんだ時期もあるという。しかし、同国のレジェンドへの敬愛を隠さない振る舞いは、かつてのジレンマを乗り越えた証なのかもしれない。憧れていては勝てない、という説教を時折耳にするが、アルカラスは19歳のときにもうナダルを倒している。18歳の誕生日に実現した初対戦からちょうど1年後のマドリッドのクレーコートだった。3度目の対戦だったが、その大会では、ナダルのみならず当時1位のノバク・ジョコビッチ、3位のアレクサンダー・ズベレフも連破してマスターズ初優勝を遂げ、噂に違わない実力をさっそく見せつけた。

 その年のローランギャロスは準々決勝でズベレフに屈し、翌2023年は準決勝でジョコビッチに敗れたが、ついに昨年、準決勝でヤニク・シナー、決勝でズベレフをいずれもフルセットの末に破り、USオープンとウィンブルドンに次ぐ3つ目のメジャータイトルを21歳にして手に入れた。スペインが待ち望んだ「ナダルの後継者」が真に生まれた瞬間だった。

ローランギャロスに抱く特別な思い

ローランギャロスのセンターコートにはナダルの靴跡がデザインされた刻版が埋め込まれている 【Photo by Tim Clayton/Getty Images】

 スペインの選手にとってローランギャロスは特別な場所だ。2003年生まれのアルカラスがテニスコーチだった父のもとでテニスを始めたときには、すでにナダルの連覇が始まっていたが、ナダル以前にも数々のスペイン人選手がチャンピオンズボードに名前を刻んできた。

「この大会には特別な思いがある。子供のとき、学校が終わったら走って帰ってテレビをつけて、試合を見ていたからね。ラファだけじゃなく、フェレーロ、モヤ、コスタ……多くのスペイン人選手がここで優勝している。そのリストの中に僕も加わりたいと思った」

 モヤというのはナダルのコーチも務めた同郷のカルロス・モヤで、フェレーロというのはアルカラスが「2人目の父」と呼ぶコーチ、ファンカルロス・フェレーロである。華麗なるスペイン勢の功績だが、ナダル以前のスペイン選手の連覇は、93年と94年優勝のセルジ・ブルゲラまで遡る。

 今年、『14』の文字やナダルの靴跡がデザインされた刻版が埋め込まれて新たな顔を見せるセンターコートで、アルカラスの連覇への戦いは始まった。

 セットこそ失っても大きな苦難はなく勝ち進み、同世代の難敵ロレンツォ・ムゼッティとの準決勝を迎えた。その日、センターコートでの練習でラファのプレートを写真におさめた。軽い気持ちの記念ショットでも、アルカラスがやればエピソードになる。メディアの期待に応えるように、「ラファを感じるものが近くにあれば、力になりそうな気がして」とコメントした。

 1セット目を奪われ、2セット目もタイブレークにもつれる接戦となったが、これをものにすると、そこから1ゲームも与えないまま、第4セットでムゼッティが左太ももを痛めて棄権した。

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。20数年にわたって全グランドスラムの取材を行い、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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