まだ早い?武居由樹vs.那須川天心の実現 お互いの“ベストな階級”での対戦が理想

木村悠

世界前哨戦として臨んだ一戦で、那須川天心(左)はサンティリャンを撃破。世界戦への扉を開いた 【写真は共同】

 6月8日、東京・有明コロシアムでボクシングの世界バンタム級ノンタイトルマッチが行われ、WBC世界バンタム級1位の那須川天心(帝拳)が、WBA世界同級6位ビクトル・サンティリャン(ドミニカ共和国)を相手に判定3-0(99-91、99-91、100-90)で勝利を収めた。ボクシング通算成績はこれで7戦7勝(2KO)。序盤は静かな立ち上がりだったが、徐々に試合はヒートアップする。天心がサンティリャンのラフファイトにも打ち合いで応じ、終盤は激しい攻防で会場を盛り上げた。

 “世界前哨戦”と銘打たれて行われた一戦を大差判定でクリアした天心には、次戦での世界戦挑戦が期待される。その相手として周囲が熱望するのは、WBO世界同級王者の武居由樹(大橋)に他ならない。果たしてともにキックボクシングにルーツを持つ2人の、ボクシングでの対戦は実現するのか。その勝負論と、ベストタイミングについて占う。

世界前哨戦をしっかり勝ち切った天心の成長

接近戦で主導権を握るなど、ボクサーとしての成長を見せつけた天心。このままベルト奪取まで突き進むことはできるのか 【写真は共同】

 世界前哨戦では、サウスポー相手に接近戦での攻防が目立った天心。右構えのオーソドックスの相手とは異なり、サウスポー同士だと距離が近くなることで、接近戦が多くなる。そうした戦況において、天心は的確にパンチを当てて主導権を握っていた。試合後のインタビューでは課題を口にしていたが、接近戦での成長を示し、多彩な攻防を展開しボクシングの幅を広げていた。

 今後に向けては、本来の持ち味であるカウンターを活かしつつ、前に出てポイントを奪うスタイルが求められるだろう。試合後は納得のいかない表情も見せたが、強敵に勝ち切ったことで確実に前進している。キックボクシング時代の実績から知名度もあり、常に大きな期待がかかるが、まだボクシング転向から2年。焦る必要はない。この勝利で世界戦へ弾みをつけた。

 世界前哨戦をクリアしたことで、注目されているのが武居との対戦だ。この日もゲストとして武居が会場に姿を見せていた。両者はキックボクシングでの対戦経験があるが、それはジュニア時代のことであり、過去の経歴は参考にはならないだろう。異なる道を歩んできた2人だが、お互いを強く意識し、対戦を望んでいる。ファン待望の試合が実現するのか、その行方が注目される。

不安定な一面も見せつつ、2度王者防衛を果たしている武居

天心との対戦を「常に意識している」と語る武居は、9月にヒメネスとの指名試合が予定されている 【写真は共同】

 武居は2020年までK-1で活躍し、21年に大橋ジムからプロボクシングデビューを果たした。デビュー前には元WBO世界フライ級王者・木村翔(花形)とのエキシビションマッチで圧倒的なセンスを見せつけ、キック出身選手にありがちな“パンチが苦手”というイメージを払拭。ダウン寸前まで追い込む姿に、将来の世界王者の誕生を確信させた。

 その後、8連続KO勝利で世界戦の切符をつかむ。キック時代の間合いを活かした変則的なパンチでKO勝利を積み上げた。元統一フェザー級王者ナジーム・ハメド(英国)を彷彿とさせる変則的な攻撃で観客を魅了した。しかし、世界の舞台では課題も露呈。23年5月のジェイソン・モロニー(オーストラリア)戦では最終ラウンドにKO寸前まで追い込まれ、耐久面に不安を残した。

 初防衛戦では元フライ級王者の比嘉大吾(志成)と対戦し、11回にダウンを奪われる激闘を戦い抜き判定勝ち。パワーに頼るスタイルゆえ、ガードが甘く被弾が多い点は明確な課題だ。また、世界クラスを相手にした際、パンチ力を十分に活かしきれない場面も見られた。

 その後、ケガによるブランクを経て、25年5月にはユッタポン・トンデイ(タイ)と対戦。初回に3度のダウンを奪い、圧巻のTKO勝利で2度目の防衛に成功。試合間隔が空いたことでリフレッシュでき、調整もうまくいった様子だ。

 今後は、9月名古屋で予定されているWBO世界同級1位のクリスチャン・メディナ・ヒメネス(メキシコ)との指名試合が注目されている。

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著者プロフィール

1983 年、千葉県千葉市生まれ。元ボクシングWBC 世界ライトフライ級チャンピオン、現・株式会社ReStart 代表取締役。中学時代よりボクシングを始め、習志野高のボクシング部を経て、法政大1 年のときに全日本選手権で優勝を果たす。卒業後、名門・帝拳ジムでプロデビュー。その後、挫折をきっかけに商社に勤めながら、仕事とボクシングの二刀流で「商社マンボクサー」として注目される。2014 年、ライトフライ級日本タイトルを獲得し、翌年に初挑戦で見事 WBC 世界ライトフライ級チャンピオンの座に就いた。現役引退後は、Yahoo ニュース、 LINE ニュースでの執筆や、ボクシング活性化を目的としたコミュニティ 「オンラインジム」を設立して情報発信に努めている。

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