ニューヨークで大一番に挑む三代大訓の流儀 難関の階級で東京五輪金メダルの大物相手にサプライズを誓う
みんながやらないことを考えて、僕はやってきた
中央大学卒業後、2017年3月にプロデビュー。6戦目で東洋太平洋スーパーフェザー級王者となり、4度の防衛にも成功。次の11戦目で大勝負に出た。
ライト級に1階級上げ、元世界王者の伊藤雅雪(横浜光=当時)に殊勲の判定勝ちを飾ったのは2020年12月。が、以降は思うようにキャリアは進まず、心機一転、ワタナベジムから移籍。その矢先だった。
2023年4月、韓国で消化不良の負傷判定負け。まさかの初黒星を喫した。世界ランクを失っただけでなく、「自分のボクシングも崩れて、自信もなくなった」と振り返る。中国人選手との再起戦、日本王座挑戦権をかけた最強挑戦者決定戦と「我慢の2試合」を泥臭く這い上がった。
昨年4月に日本ライト級王座を奪取。2度の防衛も果たした。再び1戦1戦勝つことで「崩れた自分のボクシングをまたいい形につくり直せたのが大きい」と実感を込める。失いかけた自信も再構築してきた。
前回、昨年12月の注目の丸田陽七太(森岡)戦では、三代のボクシングの根幹をなすものが見えた。「三代が狙うのは“際(きわ)”」とは試合後の石井会長の解説である。
相手の入り際、離れ際、クリンチ際、パンチの打ち終わり、打ち出し。動作と動作の切れ目に生じるスキを突いていく。
丸田は6回終了後に棄権。三代のTKO勝ちとなったが、理由のひとつとなった右目の負傷は、3回に丸田が仕掛けた入り際、離れ際の一瞬を続けざまに襲った鋭いジャブが致命打になった。三代の研ぎすまされた集中力が際立った試合だった。
「そういう分かりにくーい、“映えない”ところですよね(笑)。みんながやらないことをあえて考えて、僕はやってきたので」
伊藤戦では「自分の意思をも裏切るタイミング」という意味で「自分の“意識の外”で出すジャブ」と称したが、これは究極だろう。
以前、三代は向かい合うと相手の“波”が見えると言ったことがある。その波が大きいほど、スキを突きやすい。能力の高い選手ほど、波は細かく、スキを見いだしにくい。果たして、アンディ・クルスはどう三代の目に映るのか。
石井会長は「そこの緩みはゼロ(に近い)。国内のライト級とは比べ物にならない」と厳しい戦いは承知の上。“未知との遭遇”となるのか。三代は心構えを語った。
「まず、そんなところ(スキ)が存在するのか。存在したとして、そこを突けるのか。どんだけ未知なのか、どんだけ想定外なのか。それでもやりきる。そういう試合になると思います。自分に変えられない相手の強さ、動きをどうしようとか考えても仕方ないので、自分にできることをやる。やりきる。ちょっとの違和感(を与えるだけ)で実力を出せなくなるのがボクシングなので」
夜の公園でひとり没頭するのは?
徹底的に相手を映像で見て、分析し、綿密に試合をシミュレーションするのは2週間を切った頃から。気づいたことをすべてノートに書き出し、戦うイメージを明確にしていく。いつも通りの三代のやり方だ。
「そこからリアルにイメージします。このパンチ、実際はもっと伸びてくるんだろうなとか。この映像でこう反応してるから、自分のパンチだったら、こんな感じで見えるんだろうなとか。僕の想像力を最大限に駆使して。こうきたらこうする、こうなった場合はこうとか。どう戦うかを細かく、具体的に」
石井会長が「すべての動きに反応する」と評したようにクルスは反応のよさ、速さが目を引く。
「すべてのパンチにカウンターを合わせてくるような、とんでもない選手ですよ。三代の一挙手一投足を見逃さないと思う。でも、それって、すごいことなんですけど、逆に三代が動くことで、相手を動かせるということじゃないですか。どういう発想でやるか、それができるかだと思います」
一方で、最近のクルスは被弾も目に付く。最終的に7回KO勝ちで仕留めきった4戦目のアントニオ・モラン(メキシコ)戦の4回には、打ち終わりを狙い打たれた左フックで効かされ、ずるずると後退した。直近5戦目のオマール・サルシード(メキシコ)戦の特に判定が見え始めた終盤には、しつこい連打とコンビネーションを受けるシーンも見られた。
「アマチュアのときはパンチを受けもしなかったけど、プロでは結構、受けてくれる」と三代。「それでも強いし、巧いんですけど」と前置きし、「プロに寄せようとして、まだプロの戦い方にフィットしてない」と見る。
クルスはキューバから亡命して、まだ何も成し遂げたわけではない。存在感を鮮明にしようと攻守の比率を“攻”に傾けているようにも見えるのだ。“世界前哨戦”でアピールを狙い、より意識を攻撃に向けてきたら。“波”は大きくなり、スキを見いだしやすくなるかもしれない。
三代の最後の仕上げはシャドーボクシング。夜の公園で、明確になってきたイメージとひとり向き合い、クルスと戦う感覚を研ぎすませる作業に没頭するのだという。
「どの試合でも大体やってます。公園の隅っこで。夜がいいですね。暗闇でやるほうが雑念がないんで」
イメージするのはフルラウンドの戦い。12ラウンドの中でどう競り勝つか、勝ち切るか。アウェーの判定はどう考えているのか。聞くまでもなく、答えは明快だった。
「自分のボクシングをやるだけです。判定がどうとか、そこも自分に変えられないことじゃないですか。そこは悩まないです。海外だから倒さなきゃ、前に出ろとか言われても、自分はKO型でも、ファイターでもないし、ボクシングが崩れるだけなので。自分のやることのみにフォーカスします」
絶対にやってやるという執念、覚悟のルーツ
「僕には才能もセンスもなかったし、環境としてもスタート地点はほんとに低いところからだったんで。成り上がっていくストーリーじゃないですけど、あそこからここまで来た、そういう思いが執念となって、試合で出るんですよ」
下馬評不利など、三代には当たり前のことだった。“スーパーBサイド”を自認する男がキャリア最高の舞台でサプライズを起こし、難関のライト級で世界に手をかけることはできるか。短い言葉に覚悟を込めた。
「絶対にやってやる。そういう気持ちですよ」