スカウトが振り返る、下位指名から大化けした選手達(毎週火曜日更新)

「うちで育つ確信持てず...」阪神・前川ら指名見送りの理由 元中日チーフスカウトが明かすドラフト秘話

永松欣也

2021年のドラフト。中日は1位でブライト健太、2位で鵜飼航丞を指名した 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。特に下位指名ではスカウトの眼力、球団の戦略が問われ、これまで多くのドラマを生み出してきた。そこで現在活躍している「下位指名から大化けした選手」を中心に、中日の元チーフスカウト米村明氏に過去の下位指名選手についての指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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社長に怒られた指名

 8年ぶりにAクラス(3位)入りした2020年は、ドラフトでは近大の佐藤輝明(阪神1位)、早稲田大の早川隆久(楽天1位)、トヨタの栗林良吏(広島)など、即戦力候補が多くいる年だった。そんななかで中日は高校ナンバー1ピッチャー、地元・中京大中京の髙橋宏斗を単独1位で獲ることができた。2位では中央大の牧秀悟を考えていたが直前でDeNAに指名された。ちなみに野手では牧と桐蔭横浜大の渡部健人(西武1位)を高く評価していた。

 万一、髙橋宏斗が抽選になって外した場合は、やはりピッチャーが欲しかったから残っていた選手の中から考えると福大大濠高の山下舜平大(オリックス外れ1位)に行っていたと思う。外れ1位で牧を推す勇気まではなかった。
 1位で高校生投手を獲ったが4位では倉敷工業の左腕・福島章太、5位でも帝京大可児の右腕・加藤翼を指名している。これは高校生投手を多く獲ろうという方針だったわけではなく、単純にその順位で残っていた選手の中で一番魅力があった選手を指名した結果。

 3位で近江高の内野手・土田龍空を指名してその次が福島の指名になったわけだが、この指名が後に球団社長から怒られた。ドラフト直前のスカウト会議で3位までの指名シミュレーションを行っていたのだが、その時は3位である社会人投手の名前が挙がっていた。その場には社長もいたから、社長は自分の部下である記者に「明日は〇〇に行っておけよ」などと指示を出していた。だが当日の流れでその投手は指名されなかった。

 それでドラフト終了後、私と松永幸男スカウト部長が呼び出され「どういうことだ! なんで指名しなかったんだ!」と怒られた。私がもう一つその投手を評価していなかったこともあるし、シミュレーションはあくまでもシミュレーション。本番では想定していたよりも良い選手が残っていたから指名しなかったのだが、それは松永部長も同じ意見だった。だから私は「土田と福島の方が実力が上だからです。単純に実力の問題です」とはっきり答えた。ちなみに指名しなかったその投手は他球団に指名され、今はもうユニフォームを脱いでいる。

「米村さん、指名してやってください」

2020年のドラフトで6位指名した三好大倫。戦力外通告を受けてユニフォームを脱いだ 【写真は共同】

 6位で獲ったJFE西日本の外野手・三好大倫は担当スカウトの野本圭が「三好という選手は見ておいた方がいいです。何位でも獲れますから」と言うから一緒に観に行った。バッティングが良くてその試合ではライトに大きな打球を打った。それを観て野本に「本当に何位でもいいんだな?」と確認して獲ることを決めた。三好は高卒5年目の選手だったが4年目に投手から野手に転向していたから実質2年目の選手。それでこれだけのバッティングできるのは良いなと、伸び代も含めて評価した。だがネックは一つあった。それは三好がまだチームに貢献していない選手だったということ。おまけに会社は超大企業。私も中央大から河合楽器に進んでオリンピックにも出たけれど、会社からは「都市対抗に出ないと(プロには)出せない」と言われていた。私はその後に都市対抗に出られたからプロに行くことを許されたのだ。だから三好はまず都市対抗に出られないと指名は難しいと思っていた。そしたら案の定出場を逃した。野本には「諦めよう」と話していたところだったが、監督さんからは意外なことを言われた。

「周りは大卒ばかり。三好は高卒採用だから野球を引退した後は苦労するかもしれない。米村さん、指名してやってください」。そう言われたのだ。それで最後の最後、6位で獲った。

 プロ4年目の昨年は岡林の怪我もありオープン戦から使われて開幕から「一番・センター」で起用された。結果は残せなかったが開幕からしばらくはスタメンで使われ続けた。だが5月末に抹消されるとそのまま昇格することなくオフに戦力外通告を受けた。結果を残せなかったのは間違いないが、せっかく多くの経験を積んだのだし年齢もまだ27歳。見限るにはちょっと早かったのではないかという思いはある。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』など。

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