井上尚弥vs.中谷潤人は異なる育成モデルの激突? 射場哲也・JCL実行委員長に聞く“プロ生え抜き”育成の最前線

船橋真二郎

実戦の機会と質の充実

後楽園ホールのプロ興行に組み込まれたJCLトライアルマッチで勝ち名乗りを受ける(2024年1月26日) 【写真:船橋真二郎】

 ワンマッチでマッチメークして行われる「JCLトライアルマッチ」はプロの興行内に組み込まれ、ヘッドギア、袖なしの上着を着用、明確なクリーンヒットでダウンを取るなど、安全管理を徹底したJCLルールのもと、2分3ラウンド(U-18)で戦う。

 会場入り、ウォーミングアップ、入場、リングアナウンサーの選手コールに始まり、日本ボクシングコミッション(JBC)のレフェリーがさばき、ジャッジが採点、勝者が勝ち名乗りを受けるまで、プロと同じ舞台、同じ流れで貴重な実戦経験をデビュー前に積むことができる。

「(デビュー戦で)ガチガチになることはないと思うし、舞台に対して物怖じすることはないはずです。この経験がアドバンテージになると期待しています」

 実際、日本人史上初の世界ウェルター級王者を目指し、6月19日に東京・大田区総合体育館で大一番に挑む佐々木尽の実弟・佐々木革(八王子中屋)など、プロ生え抜きでJCLトライアルマッチを経て、4回戦デビューした選手何人かに聞いたところ、グローブが小さくなり、ヘッドギアがないのが少し不安なだけでそこまで緊張しなかった、経験が生きたと前向きな答えが返ってきた。

 国内でデビュー可能な17歳で4回戦からスタート。新人王トーナメント、24歳未満のA級ボクサーが争う日本ユース王座、挑戦者決定戦から日本王座とプロの段階を着実に踏んで飛躍した中谷の存在は「夢がある」と射場委員長は言う。

 中学卒業後、15歳で単身渡米。ロサンゼルスで腕を磨いた中谷を語るとき、ルディ・エルナンデス・トレーナーとの出会いは欠かせない。特別な例と見る向きも多いのだが、同じプロとして「日本の指導者のレベルも上がっている」と力を込める。

「昔と違って、海外の試合も練習も動画があるので。こうやるのか、こういうのもあるのか、と研究できますからね。トレーナーも考えて、常に勉強しないとダメですけど、(アメリカに行かなくても)技術は身に着けられます」

 あとはトライアルマッチを含めたJCLで、どれだけ実戦の機会と質を充実させられるか、と表情を引き締める。

これから求めたいプロのスター像

JCLトライアルマッチを戦う佐々木尽の弟・佐々木革(左)。(2023年1月27日) 【写真:ボクシング・ビート】

 一方で、射場委員長が危惧するのが“勝利至上主義”。負けた子どもに親が強く当たるケースも珍しくないという。

「戦績にキズがついたとか、全勝で行かないといけないみたいなのが強くて。そうなると負けたときの絶望感がすごいんです。負けたからやめることもあるんですけど、それは違うと思う。去年のJCLで中谷選手からビデオメッセージをもらったんです。そこで『ボクシングを好きになって、楽しむことが強くなる一番の秘訣』だと言ってくれて。特に小、中学生はまさにそうで、そこは考えてほしいところです」

 求めるのは「プロで、負けを経験しながらも這い上がって、最後は世界チャンピオンまで行った、みたいなストーリー」という。

「誰でもうまくいかないことってあるし、人間そこからじゃないですか。昔の叩き上げのチャンピオンもそうですけど、そういう選手がこれからまた違った角度から人の心を動かすのかもしれないと思うんです」

 目に見える成果はこれからだが、アマチュア何冠から華々しくデビュー、全勝街道をひた走るスターばかりでなく、どこか懐かしくも、新しいスター誕生にも期待したい。このプロ生え抜きのスターが子どもたちの可能性を広げることになるのかもしれない。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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