井上尚弥vs.中谷潤人は異なる育成モデルの激突? 射場哲也・JCL実行委員長に聞く“プロ生え抜き”育成の最前線
世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上は去る5月4日、アメリカ・ラスベガスでラモン・カルデナス(アメリカ)戦を突破。2回に痛烈なダウンを喫しながら、冷静かつ果敢に挽回して8回TKO勝ちを飾り、世界中のボクシングファンを熱狂させた。
次は中谷の番。6月8日、WBC世界バンタム級王者として東京・有明コロシアムでIBF同級王者の西田凌佑(六島)との王座統一戦に臨む。参謀役として定評を得る武市晃輔トレーナーとのコンビで戦略的に戦う難敵を攻略できるか。Amazonプライムビデオで独占ライブ配信される一戦から目が離せない。
この井上と中谷の“究極の日本人対決”だが、見方を変えると異なる育成モデルの激突と捉えることもできる。
ともに現在のジュニア・チャンピオンズリーグ(以下、JCL)全国大会の前身であるU-15ボクシング全国大会(以下、U-15)の優勝者。ジュニア世代から実戦経験を積んだ新世代だが、その先は別の道筋をたどってきた。
中谷のような選手がよく出てきてくれた
そう力を込めたのは、日本プロボクシング協会のJCL実行委員長を務める射場哲也・RE:BOOTボクシングジム会長(48歳)である。
こういう選手とは中谷のこと。日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王者を含めたチャンピオンの大半をアマチュア経験者たちが占め、プロ生え抜きの選手が世界を目指すのは難しくなったと言われるようになって久しい。そんな時代に中谷が本格的なアマチュアキャリアを経ずに世界的トップボクサーとなったことを指す。
井上のボクシングキャリアは最終盤を迎えている。公言してきた35歳までか、あるいは大橋秀行会長に延長を打診したとされる37歳か。当代随一のスター選手が一線を退くまで、いずれにしても数年しかないことになる。
業界として「そうなってから危機感を持っても遅い」と射場委員長。広く、継続的に才能を発掘し、大きく育てるためにも道筋はいくつもあるべきと語る。
JCLを「選手育成プログラム」と位置づけ、未来を見据えた育成環境の整備に精力的に取り組んできた。今年4月で2期目(任期3年)を迎えたJCLのトップが考える、これからのプロの選手育成について聞いた。
定番のスター路線だけでは埋もれる才能もある
それが村田諒太(帝拳)の登場とともに「オリンピックで金メダルを獲って、プロの世界チャンピオン」に支持が集まる。最近の人気ナンバーワンは「世界チャンピオンになって、4団体統一」。これにちらほらと「パウンド・フォー・パウンド(PFP)1位」が加わってきた。
言うまでもなく井上尚弥効果だろう。「PFP1位」はかねて中谷が口にしてきた目標でもあった。強さを示してきたニューヒーローに人気が集まってきたのかもしれない。
子どもたちが描く夢や目標が広がるのは素晴らしい。では、どう目指すのか。現在の主流は高校、大学でアマチュアキャリアを積み、実力を磨くとともに経験を蓄え、実績を残してプロに転向すること。4回戦を飛び越え、6回戦または8回戦からスタートし、チャンピオンへの階段を一直線に駆け上がるのが定番のスター街道となっている。
「その行き着くところまで到達したのが井上尚弥選手」と射場委員長は言う。高校王者を決めるインターハイなど、高校年代の主要全国大会で5冠を達成し、ユース、シニアの国際大会でも活躍。高校3年で国内最高峰の全日本選手権優勝も果たすなど、十代にしてロンドン五輪出場にあと一歩まで迫ったのが井上だった。
ただし、この路線だけではすくいあげることができず、埋もれてしまう可能性のある才能もいると指摘する。
「例えば、金銭面とか家庭の事情で高校に行けない子、ヤンチャして学校をやめた子、何らかの理由で引きこもりになった子とか、何か別のスポーツをやってきたんだけど、挫折してしまった子。我々からしたら、この路線に乗れなかった子のなかにも、隠れた宝物が眠っているかもしれないですから」
この宝物を受け止め、育くむことができるのも年齢を幅広くカバーするようになったJCLと射場委員長は続けた。