元日本代表・大竹里歩が全うしたバレー人生 父への反抗、春高での激戦、現役最後の1年で見つけたもの

田中夕子

ジェネレーションギャップを感じる中で

様々な経験を積んだ大竹里歩はチームメイト、後輩たちからの人望も集めた 【写真提供:SV.LEAGUE】

 充実の3年間を過ごした高校時代。特に鍋谷がエースで主将を務めた東九州龍谷高との春高準決勝は、未だ語られる名勝負だ。東九州龍谷が2セットを先取した後、下北沢成徳が2セットを奪取。第5セットはブロック、スパイクで大竹が獅子奮迅の活躍を見せ、中盤まで最大5点差をつけてリードしたが、終盤に鍋谷の攻撃で猛追した東九州龍谷が逆転し、デュースを繰り返した末に18対16、フルセットの攻防を制した東九州龍谷が勝利し、決勝も制し四連覇を達成した。

 大竹自身も「ずっと戦っていたいぐらい楽しかった」と振り返る熱戦だが、思わぬところに影響が及んでいたことを知ったのは、22年に久光(現・SAGA久光)に入ってからだった。

「チームの若い子たちが『あの春高を見て、自分も本気でバレーをやろうと思ったんです』と言ってくれた。しかも1人じゃなく何人もいて。ジェネレーションギャップも感じるんですけど(笑)、でも自分が一生懸命やってきたことを見て、“自分も頑張ろう”と思った子たちと一緒に選手としてできているなんて、すごく幸せだし素直に嬉しいって思いました」

 21年にデンソーを辞める時、引退も決意した。だが「やり切る前に辞めるのはもったいない」と父からも説得された。続ける道などあるのか、と模索した時、移籍リストに名前が載った大竹に声をかけたのが久光だった。

 Vリーグや皇后杯など多くのタイトルを制した常勝軍団ではあったが、大竹が入団する前年は8位に沈んだ。経験豊富な選手と若い選手が新たに強い集団となっていくために、ミドルブロッカーとしての力はもちろん、人と人をつなぐ大竹の人間力も高く評価されての打診だった。

 期待の表れをそのまま示すように22/23シーズンから主将に就任。出場機会も多くあり、23/24シーズンにはレギュラーラウンド3位。Vリーグ最後の女王を狙う射程圏内にいたが、ファイナルラウンドの初戦で敗れ、最終順位を6位で終えた。

 実は、このシーズンを終えたら引退しようと決意していた。「やりきろう」と考えて臨んだシーズンでもあったが、最後の最後で大事な勝負所で負けた責任が、主将である自分の不甲斐なさだと自身を責める気持ちも拭えなかった。

 悩みに悩んで、次こそ最後の1年、と心に決めて現役続行を決意したのが昨年の3月。引退後のキャリアも考え、指導者研修にも参加し、これまでとは違う経験を重ねながらシーズンを過ごすと、新たな視点と楽しさが加わった、と明かす。

「自分よりも周りに目が向くようになって、特に(昨年末の)皇后杯で負けてから、北窓(絢音)や深澤(めぐみ)、若い子たちの意識やプレー、表情がガラッと変わって一皮むける瞬間を見られることが楽しくて仕方がなかったし、とにかくね、一生懸命でかわいいんですよ」

「大竹家に生まれたからこそ」

31歳で“ひと区切り”も、彼女のバレー人生は続く 【写真提供:SV.LEAGUE】

 チャンピオンシップのセミファイナルでNEC川崎に敗れ、大竹の選手生活は幕を閉じた。成長を見守った若手選手や、苦楽を共にした仲間たち。そして対戦相手でミドルブロッカーとして長年切磋琢磨し続けてきた島村春世や、父と現役時代にNECでプレーした大竹にとって「もはや家族みたいな存在」というスタッフも見守る中、両チームによる胴上げで幸せな現役生活に別れを告げた。

 11歳から始めたバレーボールを31歳まで全うした。23年に結婚し、遠距離生活を続けてきた夫との暮らしもある。しばらくは心身ともにゆっくりした時間を家族と共に過ごす予定だが、これからは「大竹家に生まれたからこそ、バレーボールに携わって恩返しをしたい」と微笑む。

「バレー教室や解説、機会をいただけたらいろんなことにチャレンジしたいし、女子バレーも盛り上げたい。佐賀に来て、フロントスタッフの方々がチケットを売るため、お客さんに来てもらうためにどれだけ努力しているかという姿も見て来たし、久光は選手も一緒に意見を出し合って来たので、私自身も学ばされることがたくさんあった。選手にとっては結果を出すことが一番で、それは間違いないかもしれないけれど、それだけじゃお客さんは来てくれない。どうすればもっとSVリーグが盛り上がるか。試合をしていること、チームや選手を知ってもらえるか。みんなで、考えていきたいです」

 苦しかったことや嬉しかったこと、ひとときの反抗期も、すべて必要な経験。歩み続けてきた人生に胸を張り、これからの人生も生きていく。もっと楽しく、もっと幸せになるために。

2/2ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント